介護

嚥下食ピラミッドとは? 嚥下食の形態を分ける3つの考え方

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2022年我が国における65歳以上の高齢者の割合は、29.1%に達しました。

高齢者人口が21%を超えたため、現在の日本は「超高齢社会」と呼ばれる状況に突入しています。

 

急激に高齢者の割合が増えると、医療や福祉、介護などの現場だけでなく各家庭内でも大きな負担が生じてしまいます。

これらの問題を改善するには、高齢者一人一人が健康であることが重要です。

そのために「医食同源」という「日頃からバランスの取れた美味しい食事を取ることで病気を予防、治療できるという考え方」に注目が集まっています。

高齢者の食生活の特徴として以下のことがあげられます。

・食欲低下による摂取エネルギーの不足

・同じ食品ばかりを好む

・買い物や調理が億劫になる

これらの背景には独居や貧困などの社会的要因や、嗅覚、味覚、食欲の低下など加齢の関与、さらに認知機能障害やうつなどの精神的心理要因があげられています。

バランスの取れた食事をただ食べて身体に吸収するだけでなく、楽しむことにより、生きる活力にも繋がります。ただ美味しく安全に、食べるためには、個人の食べる機能的な力のレベルに応じて食事の形態を変えることが必要です。

赤ちゃんでも、初めは大人と同じ形があるものではなくどろっとした離乳食から始まりますよね。

高齢者も同じで、歯の欠損や飲み込み(嚥下)が弱いなどの問題があれば食形態の見直しをします。

そのために示されたのが「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会」が発表した嚥下食ピラミッド」

という考え方です。

この考え方により、多くの施設やそれに関わる福祉関係者にも統一した基準が示され、高齢者の食生活改善に役立っています。

この記事では、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の「嚥下食ピラミッド」の概要とその他の嚥下食分類法の紹介、高齢者の食生活における問題点とその課題について分かりやすく言及していきます。高齢者の食事で困っている1人でも多く方の助けとなれば幸いです。

嚥下食の役割

嚥下食とは、飲み込みや咀嚼といった口腔機能の低下がある場合に、その個々のレベルに合わせた形態の食事をさします。普通食と違ってとろみや食感を調整しているため、上手に噛んだり、飲み込んだりすることが可能です。

その結果、QOLの向上、低栄養の予防や改善、誤嚥事故を防止することに繋がっていきます。

一つずつ詳しく見ていきましょう。

QOLの向上

QOLとはQuality of Lifeの略で、生活の質、生命の質などと訳されます。

個人の機能レベルにあった形態の食事は、このQOL向上に大きく結びつきます。反対に個人に適していない形態の食事をとると、QOLはどんどん下がっていってしまいます。

いうまでもなく、私たちの身体を作っているのはすべて口から取り入れたもの。

適切に調整された食事、すなわち嚥下食は、身体にとって必要な栄養素をとるだけでなく、生きる喜びも感じ、低下した機能の回復へと繋がります。

そのため、どの病院や施設、家庭でも高齢者一人一人に合った形態の食事を提供することが重要な働きを持っています。

 

低栄養の予防と改善

低栄養とは、体が必要なエネルギーに対し不足している状態のことを意味します。

もっと詳しくいうと、食事量が減りエネルギー摂取量が低下し、筋肉や皮膚の素となるタンパク質やビタミンが慢性的に足りていない状態です。

この原因には、

・摂食・嚥下機能低下により、食べたくても食べられない

・身体上に障がいがあり、食事をとりにくい

・病気などにより食欲が低下している

・誤った認識や極端なこだわりなどが挙げられます。

本人だけではなく、医師や周りの家族の判断を仰ぎ対処することが大切です。

 

低栄養に陥ると、

・死亡リスクが上がる

・骨折や誤嚥性肺炎、低タンパク血症、低血糖による意識障害などのさまざまな病気にかかりやすくなる

・病気になると治りにくい

・活動量が低下する

可能性があります。その結果、ADL(日常の生活動作)低下、QOL低下に繋がってしまいます。これらを予防し、防ぐためにも適切な形態の嚥下食が大切です。

必要なエネルギーやタンパク質、ビタミンをとることで、

・基礎代謝、筋肉量を維持

・疲労の回復

・身体機能の維持

・活動量の維持

・消費エネルギー量の維持

・摂取エネルギーの維持

というのサイクルへと繋がり、健やかでいきいきとした生活を営むことができるのです。

 

誤嚥事故を防ぐ

誤嚥とは、食べ物や飲み物が食道ではなく、気管に誤って入ってしまうことを言います。

健康な人なら、誤って気管に入っても咳をしたり、むせたりすることによって誤嚥したものを排出することができます。しかし、高齢になって摂食・嚥下機能が低下するとうまく排出することが難しくなります。

そのため、食べ物や唾液が気管から肺の中にまで及ぶ危険性や、窒息のリスクも高めてしまうのです。

高齢化が進み、後期高齢者人口が増加するに伴い、誤嚥事故も年々増加し続けています。それらを防ぐためにも、個人に適した形態の食事、嚥下食がより重視されるのです。

 

この記事の監修者
睡眠健康指導士、建築物環境衛生管理技術者
佐々木崇志
東北大学大学院薬学研究科修了。修士(薬科学)、建築物環境衛生管理技術者。 修了後は臨床研修指定病院で医局秘書や学生担当として全国の医療を志す学生や医療従事者と携る。勤務していく中で睡眠に関する訴えが医療従事者にも多い事に気づき、自身も医療従事者や患者の助けにならないかと考えるようになり個人で活動を始める。現在は東北を活動の拠点として睡眠(体内時計・時計遺伝子)の研究の経験、資格の知識を生かしながら睡眠啓蒙活動を行なっている。

嚥下食ピラミッドとその他の分類法

先ほどの章で、どれだけ個人に適した形態の嚥下食が大切なのかについては、お分かりいただけたかと思います。

ただ次のステップとして、その嚥下食の重要性を理解しても、どう個人の摂食、嚥下機能を見極めて、どう普通食から変化を加えていったらいいのか、その点で疑問をもつ方が多いでしょう。

そこで分かりやすく、視覚的に嚥下食の形態について示されているのが

・日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の嚥下食ピラミッド

・農林水産省のスマイルケア食(新しい介護食品)

・日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード(UDF)の3つ。

それぞれの分類方法と、その特徴、ポイントについて詳しく見ていきます。

嚥下食ピラミッド
出典:嚥下食ドットコム https://www.engesyoku.com/kiso/kiso06.html

嚥下食ピラミッドとは嚥下、摂食レベルに応じて、すべての食事をかたさ、凝集性、付着性で基準化し6段階に分類したものです。

この「嚥下食ピラミッド」という考え方は、2004年開催の「第10回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会」で金谷節子氏が発表しました。

この考え方は1980年に日本で初めてホスピスを開設した、「聖隷三方原病院の五段階による嚥下食」を元に作られています。

ホスピスとは、最期の時を穏やかに過ごすために行われる、苦痛を和らげる治療やケアのこと。

1987年に病院全体の日常業務に嚥下食をとり入れ、1988年には、開始期、導入期、安定期の3段階に分けて、ゼリー、ヨーグルト、プリン、おじやミキサーなどを段階的に組み込んだ嚥下食基準を開発。
1989年、基準にもとづいて毎日提供している嚥下食の概要をまとめた小冊子「嚥下食基準とレシピ」が作成されました。
その後、当時の栄養科長金谷節子らによって、開始食、嚥下食Ⅰ、嚥下食Ⅱ、嚥下食Ⅲ、移行食で構成される「5段階による嚥下食」が開発・提案され、後の「嚥下食ピラミッド」の基本骨格となったのです。

2013年には食事5段階、とろみ3段階について段階分類しています。原則的には、形態のみで示され、量や栄養成分については設定されていません。

その後2021年に再び改定され、コード4の「他の分類との対応」のUDF(ユニバーサルデザインフード)区分に「舌でつぶせる」という項目と、「シリンジ法による残留法」が追加されました。

出典:一般社団法人 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 https://www.jsdr.or.jp/

簡便にするために早見表と解説があり、病院、施設、在宅医療などの多くの施設で基本的に使用できることを目指し、作成されました。

さらに各施設、地域で、より細かい区分を作成、利用することが可能となっています。

「『日摂食嚥下リハ会誌25(2):135–149, 2021』 または 日本摂食嚥下リハ学会HPホームページ:https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf

 

 

スマイルケア食(新しい介護食品)  

 出典:農林水産省 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/kaigo.html#red

農林水産省からは、スマイルケア食という新しい枠組みを整備しています。

介護食品の市場拡大を通じて、食品産業、ひいては農林水産業の活性化を図るとともに、国民の健康寿命の延伸に資するべく、これまでの介護食品と呼ばれてきた食品の範囲を整理しています。

具体的には、健康維持上栄養補給が必要な人向けの食品に青マーク、噛むことが難しい人向けの食品に黄マーク、飲み込むことが難しい人向けに赤マークを表示し、それぞれの状態に応じた「新しい介護食品」の選択に寄与するものとしています。

自分の状態を「はい、いいえ」の質問で答えていくと目安になる形態が一目でわかるようになっています。

ただ年々、取り組む会社数や商品数は増えているものの

・青マークで57社、商品数225

・黄マークで1社、商品数6

・赤マークで1社、商品数14

とまだ少ないため、さらなる企業の取り組みが期待されています。

 

 

 

ユニバーサルデザインフード(UDF

ユニバーサルデザインフードとは、日常の食事から介護職まで幅広く使用でき、食べやすさに配慮された食品のこと。

その種類もさまざまで、食べ物や飲み物にとろみがついた「とろみ調整食品」や、レトルト食品、冷凍食品などの調理加工食品などがあります。

このユニバーザルデザインフードのパッケージにはマークがついており、このマークがあることによって日本介護食品協議会が制定した規格に適合した証明となっています。

消費者が選び分かりやすいように、どのメーカーの商品にも「かたさ」、「粘度」の規格によって4つの区分を表示。

この区分を目安に、自分や、自分の家族に合った食事を安心して選ぶことができるようになっています。

とろみ調整食品とは、食べ物や飲み物に加えて混ぜるだけで、適度なとろみをつけることができる粉末状の食品のこと。

加える粉末を調整することで、簡単に粘度を変えることができとても便利です。

また、ゼリー上に固めることができるものも販売されています。

適度なとろみをつけることで、食べ物を塊にまとめやすくなり、ゆっくりと食道へ流れます。

出典:日本介護食品協議会 https://www.udf.jp/outline/udf.html

 

嚥下食の作り方と注意点

タンパク質を優先に

冒頭でも触れたように、超高齢化がすすむ日本では要介護状態になることをなるべく避け、少しでも自立した生活をすることを目指すのが大切です。

将来の身体機能低下を予防するには、筋肉量と筋力を維持し強化すること。それらに強く関連するのは「タンパク質」です。

日本人の食事摂取基準2020には、タンパク質の推奨量を一日あたり75歳以上の高齢者男性で60g、女性で50gとしています。

高齢者は少量でも満腹になりやすい傾向にあるので、ご飯やパンなどの糖質からエネルギーはもちろん、肉や魚、卵、大豆製品、乳製品のタンパク質を優先に食べると良いでしょう。

その他にも、カルシウム代謝や骨代謝に関わるビタミンD、ビタミンC、ビタミンE、カロテン類、亜鉛、セレン、マンガンについて摂取量と身体機能低下との関連が検討されています。

今までの食生活スタイルや、間違った認識を変えるのは容易ではありませんが、健康のために今一度見直すきっかけとなれば幸いです。

 

彩りで食欲を刺激する

身体活動の低下で、買い物や調理が億劫になり、気軽に取り入れることができるインスタント食品や冷凍食品、惣菜などが人気を集めています。

ただそれらばかりを食べていると、栄養に偏りが生じてしまいます。

おすすめはそれらを活用しつつ、自分で好きな野菜やきのこ類を少しだけ足すこと。

そうすれば一から調理をしなくても済み、ビタミンやミネラルも補給することができます。

野菜やきのこ類を足すと、自然と緑や黄色、オレンジ、赤といった色味が加わり彩りが豊かに。視覚的にも満足度が増すので、食欲増進にも繋がり一石三鳥です。

 

より食べやすくするために

形態に応じてとろみがついた食品や、とろみ剤も売られていますが、ご家庭にある片栗粉やコーンスターチを使って調理することも可能です。

食べやすくするには、とろみをつける他に

・柔らかくなるように、煮込み時間を長くする

・切り方を工夫して食材の線維を断ち切る

・細かくミキサーにかける

・ゲル剤を使用してゼリー上にする

こともできます。

切り方の工夫では、肉なら薄くスライスしたり、脂身をとったり、切り目を少し入れるだけで格段に食べやすくなります。ただ挽肉を使ったそぼろなどは、口内でバラバラとまとめにくいので豆腐を混ぜたハンバーグにしてから細かく切ると効果的です。

ニンジンや大根などの野菜は、線維に対して垂直に、線維を断ち切るように切ると柔らかく仕上げることができるので試してみてください。

 

まとめ

日本で進む超高齢社会。急激に高齢者の割合が増えると、医療や福祉、介護などの現場だけでなく各家庭内でも大きな負担を抱えることとなり喫緊の課題となっています。

その問題の解決策は、高齢者一人一人が健康で過ごすこと。

そのためには個人レベルにあった嚥下食をとり、身体活動を行うことが必要です。

加齢により、口腔機能は低下するため、個人レベル合わせた食事、嚥下食の重要性をお伝えしました。

・日本摂食・嚥下リハビリテーション学会の嚥下食ピラミッド

・農林水産省のスマイルケア食(新しい介護食品)

・日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード(UDF)

が示す嚥下食の分類法により、多くの病院や施設、福祉関係者が共通の基準を持つことでさらなる高齢者の栄養状態改善が期待できます。

この記事で、1人でも多くの方の食形態の見直しを考えるきっかけとなれば幸いです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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FitMap Wellnessを運営する株式会社FiiTは、正しいヘルスケアを直接ユーザー様へお届けすることはもちろん、ヘルスケアを提供する事業者の属人性も無くし、「誰でも健康になれる世界」を創るヘルスケアベンチャーです。 毎日有益コンテンツを制作しています。
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