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高齢者の嚥下障害とは?症状や原因、予防方法も解説

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「食事が飲み込みづらくなった」
「食事をするとむせてしまう」

歳を重ね、そのような悩みを感じている人も多いのではないでしょうか。

高齢者では食事を飲み込む機能である嚥下機能がさまざまな理由で低下します。嚥下機能が低下すると、今まで通りにおいしく食事が取れなくなることも。気づかぬうちに食事がおいしく取れなくなるのは避けたいですよね。

本記事では、嚥下障害で起こる症状や原因、嚥下障害が疑われたときの対応方法など、嚥下障害についてくわしく解説します。嚥下機能を維持、向上する方法についても紹介します。最後まで読めば、嚥下障害について理解できるだけでなく、嚥下障害にならないためのトレーニングをすぐにでも実施できますよ。

この記事の監修者
睡眠健康指導士、建築物環境衛生管理技術者
佐々木崇志
東北大学大学院薬学研究科修了。修士(薬科学)、建築物環境衛生管理技術者。 修了後は臨床研修指定病院で医局秘書や学生担当として全国の医療を志す学生や医療従事者と携る。勤務していく中で睡眠に関する訴えが医療従事者にも多い事に気づき、自身も医療従事者や患者の助けにならないかと考えるようになり個人で活動を始める。現在は東北を活動の拠点として睡眠(体内時計・時計遺伝子)の研究の経験、資格の知識を生かしながら睡眠啓蒙活動を行なっている。

嚥下障害とは?

嚥下障害とは?

嚥下障害とは、食べ物が飲み込みづらくなる状態になることです。嚥下とは飲み込むという意味で、その機能に発生した障害が嚥下障害です。

高齢者は加齢に伴い、若い人よりも筋肉が衰えています。食事をするときに使う食べ物をかみ砕く筋肉や飲み込む筋肉も例外ではありません。それらの筋肉が衰えれば、食べ物をかみ砕きにくくなる、飲み込みにくくなるという症状が起こります。

嚥下障害になると、今まで通りの食事ができなくなることもあります。食事がおいしくなくなったり、場合によっては肺炎や窒息につながったりするので注意が必要です。

嚥下障害により起こること

嚥下障害で起きること

嚥下障害になるとさまざまな症状が起こります。それぞれの症状を解説します。

食べ物をかんで飲み込みのが困難

今までとは違い、食事をかんで飲み込みことが難しくなります。

これは、食べ物をかみ砕く筋肉や飲み込む筋肉が衰えることで起こる症状です。とくに硬い食べ物はかみ砕くのに労力がかかるため、食べるのに時間がかかるようになります。かむ回数が多くなれば、食べることに疲れやすくなります。そのため、嚥下障害になるとやわらかい食べ物を好むようになりますが、やわらかい食べ物を取り続けることには注意が必要です。

やわらかい食べ物だとかみ砕く筋肉を今まで以上に使わないため、嚥下障害が悪化することもあります。やわらかい食べ物ばかりにならないように気をつけましょう。

食事中にむせる

食事をしているときにむせることが多くなります。

食べ物を飲み込むとき、気管に蓋をしてのどから気管に食べ物が入り込みむせないようにするのが、のどの通常の機能です。高齢者では気管に蓋をするために働く筋肉も衰えるため、嚥下障害になると食べ物が気管に入りやすくなり、むせてしまいます。水分を多く含む食べ物だとよりむせやすいため、嚥下障害の人では注意が必要です。

食後や就寝中に咳

食事中にむせるだけでなく、咳が食後や睡眠中にでることがあります。

筋肉の衰えにより、気管に食べ物や唾液が入り込まないようにする機能がうまく作動しないためです。嚥下障害になると、食後でも口の中に飲み込みきれなかった食べ物が残ります。その食べ物や唾液が気管に入ってしまうことを誤嚥と言い、それにより咳がでます。

就寝中も同様で、主に唾液が気管に入り込むことで咳こむことがあります。嚥下障害で咳がでるのは、誤嚥性肺炎のリスクがあることを表しているため要注意です。

誤嚥性肺炎になる可能性

嚥下障害の人は、誤嚥性肺炎になるリスクが高くなります。

むせたり咳がでたりする状態では、気管や肺に食べ物や唾液が入り込みやすくなります。食べ物や唾液と一緒に口の中にある細菌が気管や肺に入り込み、その細菌が原因で肺炎になるのが誤嚥性肺炎です。65歳以上の高齢者では、肺炎による死亡率が96%と非常に高いため、誤嚥性肺炎は避けなければなりません。

嚥下障害の人は口の中に食べ物が残りやすく誤嚥の可能性が高くなります。口の中に食べ物が残ると細菌が口の中で繁殖しやすくなるため、誤嚥性肺炎を避けるため口の中のケアを入念に行う必要があります。

低栄養や脱水状態になる可能性

嚥下障害の人では低栄養や脱水状態になることがあります。

今まで通りの食べ物が食べにくくなり、自然と食事が偏ったり、食事量が減ったりします。それにより起こるのが、栄養の偏り、不足といった低栄養状態です。水分を多く含む食べ物だとむせてしまうため、それを避けて起こるのが脱水状態です。

低栄養状態では筋肉がさらに衰えてしまうため、嚥下障害に悪影響を与えます。脱水状態では血液濃度が高くなり脳梗塞や心筋梗塞のリスクとなるため、場合によっては命を落とすこともあるので要注意です。

嚥下障害の原因

嚥下障害の原因

嚥下障害は加齢以外にも複数の原因で起こります。ぞれぞれの原因をくわしく解説します。

加齢による機能低下

高齢者は舌の運動や食べ物をかむ能力、唾液の分泌などが低下することで、嚥下障害になります。

これは加齢による筋力の衰えと、歯によるかむ力の低下が原因です。筋肉が舌や口を動かすので、加齢による筋肉の衰えは避けられません。

また、食べ物をかむには丈夫な歯が必要です。歯も加齢により失うことが多く、自然とかむ回数が減り、かむ力が弱くなります。入れ歯や差し歯で歯がない状態を補うこともありますが、口に合わないとかむ力が弱くなるは、歯がない状態と同様です。嚥下障害には舌や口を動かす筋力だけでなく、歯も密接に関係しています。

疾患による影響

さまざまな疾患により嚥下障害になることがあります。

脳神経障害につながる脳出血や脳梗塞、食べ物を飲み込むための神経や筋肉を低下させるパーキンソン病や重症筋無力症が該当します。

それ以外に、口の中の炎症やがんによる腫瘍が食べ物を飲み込みにくくすることも原因です。高齢者で発症の多い認知症は、嚥下障害に併発すると認知機能の低下により嚥下障害を重症化させることがあります。

医薬品による影響

医薬品を服用することで嚥下障害になることがあります。

精神安定剤や抗精神病薬は脳機能を抑制し、神経機能が低下して嚥下障害を引き起こします医薬品の副作用も嚥下障害の原因の1つです。口の中を乾燥させる副作用がある医薬品では、味覚やかむ機能が低下して、かむ回数や飲み込むまでの時間が増えます。口の中を乾燥する医薬品は、利尿剤や三環系抗うつ剤、抗ヒスタミン剤などが該当します。

不随意運動を引き起こす副作用がある医薬品にも注意が必要です。不随意運動とは自分の意志とは関係なく体が動いてしまう現象です。食事で不随意運動が起こることは食べ物をかむこと、飲み込むことを妨げるため、嚥下障害につながります。副作用で不随意運動を起こす薬は抗精神病薬や抗パーキンソン病薬が該当します。

のどの筋肉の収縮力低下は嚥下障害に直結するため、その副作用にも気をつけましょう。抗コリン剤や三環系抗うつ剤、カルシウム拮抗薬などが該当します。

心理的な要因

心理的な要因により嚥下障害になることがあります。

ストレスやうつ病などの心理的な要因がのどの違和感や飲み込みづらさにつながり、嚥下障害を引き起こします。心理的要因では、唾液を飲み込むとき、のどに違和感があるのも特徴です。

心理的要因による嚥下障害は、ストレスやうつ病などの悪化や加齢により飲み込みづらさが悪化します。咳やむせるなどの症状が少ないため、誤嚥性肺炎になってはじめて嚥下障害が重症であることに気づくこともあります。

嚥下障害が疑われるときの対応

嚥下障害が疑われるときの対応

自分や家族が嚥下障害かもしれないと感じたときは、かかりつけ医に相談しましょう。

適切な治療を受けるには、医師に診断してもらうことからはじまります。早い段階で治療を開始すれば、嚥下障害の悪化を防止し、おいしく食事を続けることも可能です。

かかりつけ医がいない場合には、嚥下障害を専門として取り扱う歯科や口腔外科、耳鼻咽喉科などに相談しましょう。

嚥下障害の治療

嚥下障害の治療

嚥下障害の治療方法にはリハビリテーションと外科的手術があります。この2つについてくわしく解説します。

リハビリテーションによる嚥下機能の回復

高齢者には主にリハビリテーションにより嚥下機能の回復を図ります。リハビリテーションには間接的訓練と直接的訓練があります。

間接的訓練

食べ物を使わず、口や舌のトレーニングを行うのが間接的訓練です。間接的訓練では以下のようなトレーニングを行います。

  • 口唇、舌、頬トレーニング:嚥下機能に関する筋力強化
  • 発声トレーニング:食べ物を飲み込むときの口や舌の動きを改善
  • 呼吸筋トレーニング:気管に入り込んだ異物を咳で吐き出す力を強化
  • 食事の姿勢改善:食べ物がスムーズにのどを通るための姿勢改善
  • 首・肩周りのストレッチ:食べ物を飲み込むための筋肉の柔軟化
  • 感覚訓練:口の中をアイスマッサージなどで刺激して感覚向上

直接的訓練

食べ物を使って行うトレーニングが直接的訓練です。

直接的訓練では、食べる能力に応じて、ゼリーなどのやわらかい食べ物から開始し、徐々に通常の食事に近づけていきます。食べ物を飲み込んだ後、唾液を複数回繰り返し飲み込む訓練も行います。これにより口の中に食べ物が残ることを防止可能です。

通常の食べ物を飲み込んだ後に、水分ややわらかい食べ物を交互に飲み込む訓練も行います。これを繰り返すことで、食べ物が口の中やのどに残ることを防止できます。

外科的手術による嚥下機能の回復

嚥下機能の回復に外科的手術をする場合があります。

リハビリテーションでの機能回復が困難なほど重度な嚥下障害になった場合が対象です。手術には嚥下機能を改善する手術と誤嚥を防止する手術の2種類があります。

嚥下機能を改善する手術では、嚥下機能の改善により通常の食事が可能になります。嚥下機能が改善するため、誤嚥の防止や軽減も可能です。嚥下機能の改善が見込めない場合、誤嚥防止の手術を実施します。誤嚥防止を目的にしているため、発声機能が失われることもあることを念頭に置きましょう。

嚥下障害の予防方法

嚥下障害の予防方法

嚥下障害は日常生活の中で予防する方法があります。それぞれくわしく解説します。

適切な食事の提供

現状にあわせた飲み込みやすい食べ物を用意しましょう。

飲み込むまでに時間がかかる食べ物だと、食事に疲れ、嚥下障害が悪化する可能性もあります。ゼリー状の食べ物や、細かく切ったり潰したりして肉などは飲み込みやすくなります。やわらかいものばかりだと嚥下機能に必要な筋肉が衰えてしまうので注意が必要です。

食事中の姿勢に注意

正しい姿勢で食べられるようにしましょう。

姿勢が悪いと食べ物がスムーズに通りにくくなり、誤嚥する可能性が高くなります。猫背にならないように背筋を伸ばして食べることを習慣づけられるようにしてください。

食事中の環境への配慮

食事に集中できる環境を整えましょう。

食事に集中しないと誤嚥のリスクが高まります。テレビやラジオなど集中を妨げるものは消し、周りの人にも集中して食事ができるような配慮を求めると良いです。

食べ方に注意

口に入れる量や頻度といった食べ方に注意しましょう。

口に入れる量は飲み込みやすい適度な量に調整します。水分の多いものはむせやすいため、少なめに口に入れると良いでしょう。食べ物は頻回に口に入れるのではなく、口に入れたものをしっかりかみ、飲み込んでから次の食べ物を入れるようにしましょう。

口の中のケア

口の中のケアを行い、できるだけ清潔を保ちましょう。

食べ物を誤嚥した場合、口の中の細菌も食べ物と一緒に気管や肺に入り込んでしまいます。口の中が清潔でないと、誤嚥性肺炎の発症リスクが高くなります。誤嚥性肺炎を避けるためにも、口の中の専門家である歯医者に定期的に診てもらい、口の中のケアを行うことも重要です。

嚥下機能を維持、向上する方法

嚥下機能を維持、向上する方法

嚥下機能に関わる筋肉を強化することで、嚥下機能のを維持・向上させ、嚥下障害を予防することが可能です。普段からできる嚥下機能強化の方法を紹介します。

頬の運動で筋力アップ

頬の筋肉を鍛え、食べこぼしやかむ動きの悪化を予防しましょう。

まずは唇を閉じ、口の中にできるだけ空気をためて頬を膨らませます。そのまま5秒待ちましょう。次に唇を閉じ、頬にくぼみができるくらい強く吸い込みます。そのまま再び5秒待ちます。これを毎日続けると効果的ですよ。

パタカラ体操で口の動きを滑らかに

口の動きを滑らかにすることで食事の食べやすさを維持しましょう。

パタカラ体操は、「パタカラ」を5回続けて発音するだけの体操です。1音ずつしっかりと、大きく口を動かして発声しましょう。この「パタカラ」は、食べ物を飲み込むときと同じ口の形をするため、飲み込むトレーニングとしても有効です。

舌回し運動で舌を滑らかに

舌の動きを滑らかにすることで飲み込みの悪化を予防しましょう。

舌回し運動は、唇を閉じて舌を回転させます。舌で頬の内側を押し、その流れで歯の外側をなめながら舌を動かします。これを右回り、左回り10回ずつ行いましょう。

高齢者の嚥下障害まとめ

高齢者の嚥下障害まとめ

本記事では、高齢者の嚥下障害について、原因や治療法、そして嚥下障害の予防方法を解説しました。

嚥下障害になると、高齢者では死亡率が高い誤嚥性肺炎になる可能性もあることから、是が非でも避けたいところですよね。そうならないよう、日頃から行える嚥下機能を増強するトレーニングの一部を紹介しました。道具もいらず、今日から簡単にできるトレーニングです。

年を重ねてもおいしく食事を取り続けられるよう、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

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