忙しい日が続くと、つい睡眠時間を削って頑張ってしまい、休日は布団の中で終わってしまう…。こんな悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。その一方で2~3時間の睡眠だけで毎日信じられないような量の仕事や勉強をこなせる人もいます。
ショートスリーパーとよばれる人たちですが歴史上の偉人にも多いことから、あこがれている人も多いようです。しかし、睡眠不足は健康に大きな悪影響をもたらします。睡眠時間を短くすると時間は確保できるかもしれませんが体調が心配です。
この記事ではショートスリーパーの実態と、睡眠時間を縮めるリスクを徹底解説していきたいと思います。
そもそもショートスリーパーとは?
ショートスリーパーとは、6時間未満の短い睡眠時間で昼間に眠気やだるさを感じることなく活動できる人のことを指します。睡眠不足による心身の健康にもほとんど影響していません。
有名なショートスリーパー
歴史上の偉人にはショートスリーパーが多いと言われています。世界的に有名なのは、フランスの英雄、ナポレオンです。毎日3時間ほどしか眠らなかったという記録が残っています。
発明王エジソンも睡眠時間が4時間だったと言われています。他にもイギリスの首相だったチャーチル、看護師の先駆者的存在のナイチンゲールもショートスリーパーでした。レオナルド・ダ・ビンチの睡眠時間も極端に短く、なんと90分だったそうです。
現代の日本人では大御所のお笑い芸人、明石家さんまさんが有名です。何か面白いことは何かと考えているので寝る時間がもったいない、といったことを何年か前のインタビューで答えています。
ロングスリーパーの偉人もいる
一方、ショートスリーパーとは逆で9時間以上の睡眠をとっていた偉人もいます。相対性理論で有名な物理学者、アインシュタインの睡眠時間は10時間だったそうです。
「ゲゲゲの鬼太郎」など多くの名作を残した漫画家の水木しげる先生の睡眠時間も1日10時間でした。睡眠の大切さを「睡眠の力」という漫画の中で説いていました。
また、2002年にノーベル物理学賞を受賞した物理学者・天文学者である小柴昌俊博士は11時間を睡眠にあてています。
こうしてみると、睡眠時間の良し悪しは時間の長短だけで語れるものではないのがわかります。
睡眠時間は遺伝子に影響される
最近の研究では、睡眠時間の長さは「抑制遺伝子DEC2」が関係していることがわかっています。その後、ショートスリーパーの多い家系の遺伝子を調べてみたところ、β1アドレナリン受容体をコードするADRB1遺伝子に「A187V変異」という変異が発見されました。
これは、10万人中4人ほどしかいない、きわめて稀な変異だということです。非常に難解な内容ですが、ショートスリーパーは睡眠を調節する機能がかなり特殊だということです。
ショートスリーパーは滅多にいない
「自分は毎日4~5時間しか寝てないけど仕事に影響はないから自分はショートスリーパーだ」と思っていても、自覚がないだけで実際はかなり睡眠負債が溜まっているという可能性があります。
ショートスリーパーは日記で確認できる
「睡眠日記」をつけるとショートスリーパーかどうかを確認することができます。本来は睡眠の質に問題を抱えている人が自分の睡眠パターンを把握するためにつけるもので、睡眠外来などで指導をうけることができますが、やり方がわかれば1人でもつけることができます。
「出典:坂野クリニック」
上記の項目をわかる範囲で構わないので、2週間ほど記録をつけます。坂野クリニックのHPからフォーマットをダウンロードすることも可能です。
睡眠時間が6時間未満の日が1週間以上ある上で、
- 昼間に強い眠気を感じることがない
- 集中力の低下がみられない
- 健康に問題がない
という状態が確認されれば、ショートスリーパーである可能性が高くなります。
意外と長い?偉人の睡眠時間
ナポレオン、チャーチルは隙間時間によく昼寝をしていたことがわかっています。
ナポレオンの場合は、馬に乗りながらうたた寝をしていたという言い伝えもあります。隙間時間を見つけては仮眠をとっていたようです。
実際に何時間睡眠に充てていたのかはわかりませんが、実際の睡眠時間は意外と長かったかもしれません。
また、エジソンも仕事の合間に1~2時間ほど仮眠をとることが多かったということなので、純粋なショートスリーパーではなかった可能性があります。
明石家さんまさんは、フジテレビの人気バラエティ番組「笑っていいとも!」のレギュラーでしたが、予告もなく欠席したことがありました。その理由は、
「少しだけ寝ようとしてベッドに横になったら、そのまま爆睡してしまった」ということです。本人が疲労や眠気を自覚していないだけで、実は疲れが溜まっていたのでしょうか。
いずれにしろ、正真正銘のショートスリーパーは滅多にいないということは確かなようです。
昼寝の意外な効用とは
仕事や勉強の合間に15分~30分の昼寝をすることは、疲労回復に効果があることがわかっています。このような仮眠のことを「パワーナップ」といい、集中力や判断力を回復できるのです。
10分以上時間がとれないほど忙しいときでも、目を閉じて、ほんの数分ウトウトするだけでも疲労回復につながるということもわかっています。歴史上の偉人たちは昼寝の効果を知っていたようですね。
理想の睡眠時間はどれくらい?
ショートスリーパーは、かなり特殊な体質であるということがわかりましたが、一般的に適正な睡眠時間は、どれくらいを目安にしたらよいのでしょうか。
理想の睡眠時間は人によって違う
一般的には1日6~8時間くらいとされてはいますが、必ずしも当てはまるとはいえません。必要な睡眠時間は季節、年齢、精神状態によって違ってきます。
さらに、日の長さと関係することもわかってきました。日照時間が短い秋から冬は、眠時間が長くなる傾向にあります。一方、日が額なる春から夏にかけての睡眠時間は短くなります。
年齢別による適正な睡眠時間
年齢 | 睡眠時間 |
0~1歳 | 14~15時間 |
1~3歳 | 12~14時間 |
4~6歳 | 11~12時間 |
小学生 | 10~11時間 |
中・高校生 | 8.5~9.5時間 |
18歳以上 | 7~9時間 |
「参照:大須賀製薬 睡眠リズムラボ」
これ以降は10年で10分ほど短くなっていくと言われています。45歳になると6~7時間、65歳になると6時間で足りる計算です。
しかし、80歳以上の高齢者は疲れやすくなり、うたた寝多くなったり、1日中寝ていたりするお年寄りも珍しくありません。
実は一見睡眠時間が長くなっているように見えますが、年をとるにつれて眠りが浅くなり途中で起きてしまうことが多いので、実際は半分程度の時間しか寝ていないことがほとんどです。
数字で測るのが難しい睡眠の質
睡眠の研究は年々進んできてはいますが、睡眠の質は最終的にその人の感覚によるところが大きいのが実際のところです。
どれだけ長く寝ても、本人が疲労感やだるさを感じていたら、質の良い睡眠がとれているとはいえません。逆に平均より睡眠時間が短い睡眠時間でも疲れがしっかりとれて、仕事や学習に支障がなければ質の良い睡眠がとれていることになります。
時間や質を気にするより、本人が眠気やだるさを感じることなく健康に過ごせる独自の睡眠方法を見つけることが大事です。
ショートスリーパーは寿命が短い?
ショートスリーパーは寿命が短いという噂があるようですが、今のところ科学的根拠はありません。先述したように睡眠時間は一人ひとりで大きく違います。短かすぎても、長すぎても、その人にとって最適な睡眠時間でなければ何らかの病を発症して寿命を縮める可能性はあります。
ショートスリーパーになる方法はある?
ショートスリーパーは遺伝が大きくかかわる先天的な体質です。現在の学説では、訓練や努力でなれるものではない、という意見が大半を占めています。
睡眠時間を縮めるリスク
最近の研究では、睡眠の役割は疲労を回復するだけではないことがわかっています。ショートスリーパーにあこがれて無理な睡眠時間の短縮を続けると、健康が大きく損なわれる可能性があるので注意が必要です。
睡眠不足で起こる危険性
睡眠時間を削ると、様々な症状が現れます。自分でも気づかないうちに進行していることもあるので、注意が必要です。
①成長ホルモンが分泌されない
成長ホルモンは下垂体から分泌されています。その名の通り、成長期の子供の発育に欠かせないホルモンですが、大人になってからでも新陳代謝や免疫機能の促進、認知機能にも大きな影響を持つことがわかっています。
睡眠時間が足りないと成長ホルモンの分泌が減少し、疲れやすくなる、集中力が続かないなどの症状が出始め、うつ病などを併発することもあります。
②記憶や経験が脳に定着しない
睡眠は勉強や経験したことを脳に固定させる働きも担っています。記憶の固定化には6~7時間ほどの睡眠が効果的で、3~4時間の睡眠では、暗記や練習の成果を効率よく出せません。
③免疫力が大幅に下がる
唾液の中にはIgAという免疫物質が含まれています。睡眠が5時間以下では唾液中のIgAの数値が低くなる傾向があり、6~8時間の睡眠で一番多くなることがわかりました。
IgAの分泌量が減ると、細菌やウイルスが体内に侵入しやすくなったり、外からの遺物に反応しやすくなったりすることで様々な感染症にかかりやすくなります。
④肥満になる
人には「交感神経」と「副交感神経」という2種類の神経があり、「交感神経」は日中の活動を支え、「副交感神経」は休息をつかさどります。
睡眠不足が続くと「交感神経」と「副交感神経」の切り替えがうまくいかなくなり、日中に交感神経が正常に働きません。その結果、消費エネルギーが低下して肥満の原因になります。
また、食欲にはレプチンとグレリンという2種類のホルモンが関わっています。レプチンは食欲を抑制し、グレリンは逆に食欲を抑える働きがありますが、睡眠時間が足りないとレプチンの分泌が低下して食欲を抑えることができません。一方、グレリンは分泌が減るので空腹感を強く感じるようになり、食べ過ぎになってしまうという負のスパイラルが発生します。
⑤ストレスに弱くなる
ストレスを感じると、副腎からコルチゾールというストレスを和らげる働きのあるホルモンが分泌されます。睡眠時間が短いと、コルチゾールの分泌量が少なくなり、ストレスにうまく対応することができません。
ショートスリーパーになれた人がいる?
ただ、訓練次第でショートスリーパーになれるという意見も少数派ながらあります。たとえば、2016年には、こんな本が出ています。
できる人は超短眠!(フォレスト出版)
「引用:Amazon」
著書は一般社団法人日本ショートスリーパー育成協会代表の堀 大輔(ほり だいすけ)氏です。今もテレビなどで時々紹介されています。今も会員を募集し、自らが開発したショートスリーパーになる方法を伝授しているようです。
著書に対するアマゾンの評価を見てみると、星5つが47%、4つが19%ですから評価は悪くありません。ただ、星1つが10%というのは決して低い数字でもありません。
10%の中には実際にショートスリーパーになるための講習に通ったという人の体験談もありましたが、ショートスリーパーになれた人もいれば、なれなかった人もいるということです。
協会のHPを見てみると、すでに1,800人以上をショートスリーパーにすることに成功していて、受講者の体験談も数多く載っています。しかし、この1,800人が受講した人の何%なのかが明記されていないので、成功率が高いのか低いのかがわかりません。(HPでは成功率95.8%となっていますが…)
webの個別相談会があるので、興味があるし込んでみてもいいかもしれませんが、万が一体調を崩しても、自己責任になるということを覚えておきましょう。
まとめ
ショートスリーパーは生まれつきの体質であり、無理に身に着けようとして睡眠を短くすると、健康に害を及ぼす可能性があります。
また、睡眠は一人ひとり適正な時間があり、年齢や季節にも大きく左右されるので、絶対的に正しい睡眠時間はありません。
今の睡眠時間で眠気やだるさがあるなど不安がある場合は、睡眠日記をつけてみたり、睡眠外来でみてもらったりするなど、自分の睡眠を見直す必要があります。