「ストレスで眠れない」、
「最近寝つきが悪い」、
「日中にとても眠くなる」
などの症状はありませんか?
また、友人や家族の眠りに関する悩みについて耳にすることはありませんか?
現代社会では、様々な生活様式、労働環境などの影響で睡眠障害を訴えるひとが急増しているそうです。
ここでは、このような睡眠に関する病気、睡眠障害について解説します。睡眠障害には代表的な6種類の症状がありますが、これらの説明と改善策についてお伝えします。
この説明を読まれた方が、自分や家族、友人の睡眠障害の改善に向けて行動され、少しでも快眠に近づいていただければ幸いです。
睡眠障害とは?
厚生労働省 e-ヘルスネットによると、睡眠障害とは「睡眠に関連する様々な病気を総称したもの」です。大きく分けると、「不眠症」、「過眠症」、「睡眠時随伴症」の3つに分類されます。
このうち、最も多いのが「不眠症」です。誰でも、ストレスや緊張、季節の変わり目、旅行などで、寝つきが悪くなったり、眠れなかったりすることがあると思います。また、寝ても疲れが取れないと感じることもあります。このような睡眠の時間や質が足りていない状態がある程度(1か月以上)継続している状態を「不眠症」と呼びます。日本人の5人に1人は何らかの不眠を感じており、特に60歳以上では3人に1人が睡眠問題で悩んでいるそうです。現代社会では、「不眠」は特別な病気ではなく、よくある病気になっています。
「過眠症」は、十分な睡眠を取っているにもかかわらず、昼間に非常に強い眠気が襲ってくる状態です、これが日々の生活や仕事、学業などに大きく影響を及ぼし、日常生活に支障をきたすような病的な状態になったものを「過眠症」と呼びます。ナルコレプシーなどの病気があります。階段からの転落、歩行中や運転中の事故など、生命の危機につながることがあるため、早急な治療が必要となります。
「睡眠時随伴症」は、睡眠中にさまざまな無意識行動が起きる病気です。たとえば、寝ぼけて出歩く夢遊病や歯ぎしりなどがあります。こちらも生命に危機を及ぼす恐れがある病気(夢遊病など)については、早急な治療が必要となります。
これらについては、後ほど詳しく説明します。
睡眠障害の種類:代表6症状について
睡眠障害には、代表的な6つの症状があります。以下に詳細を説明します。
1:不眠症
不眠症とは、寝つきが悪い状態となる「入眠障害」、夜中に何度も起きてしまう「中途覚醒」、まだ起きる時間ではない早朝に目覚めてしまう「早朝覚醒」、睡眠時間は取れたにも関わらず疲れが取れない状態となる「熟眠障害」などの睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に不調が出る病気です。よく起こる不調としては、「倦怠感」、「めまい」、「頭重:頭が重い、締め付けられる」、「意欲や集中力の低下」、「食欲不振」などがあります。
2:過眠症
過眠症とは、大きく分けて2つに分類されますが、特に問題となるのは、脳の中にある睡眠調節機構がうまく働かず、日中に強い眠気が出現する「ナルコレプシー」という病気です。ナルコレプシーでは、覚醒に関与する神経伝達物質であるオレキシンの産生が減少することが知られています。もう1つは、「睡眠時無呼吸症候群」などの病気です。こちらは、次の「睡眠呼吸障害」で説明します。
3:睡眠呼吸障害
睡眠呼吸障害とは、過眠症のもう1つの分類となりますが、特に問題となるのは、「睡眠時無呼吸症候群」という病気です。睡眠時に深く眠ることができないために慢性の睡眠不足となり、日中に強い眠気を覚える状態となります。喘息症状や肥満による気道閉鎖が睡眠不足を誘発し、症状を悪化させることも知られています。
4:概日リズム睡眠障害
毎日、決まった時間に起きる、寝るという周期的な体内時計の概日リズムがずれることで生活に支障が出る状態、および、「眠気」、「倦怠感」、「頭痛」や「食欲不振」などの不調が出る状態を指します。概日リズム睡眠障害は大きく2つに分類されます。1つは、体内時計を短期間にずらした場合に起こるもので、海外への出張や旅行時に発生する「時差症候群(時差ぼけ)」やシフトワーカーに多い「交代勤務睡眠障害」などの外因性のものです。もう1つは内因性のもので、外界の周期に体内時計を同調させる機能に問題が生じた場合に起こるものです。
5:睡眠時随伴症
睡眠中におきる「夢遊病」、「金縛り」、「てんかん」、「夜尿症」、「寝言」、「歯ぎしり」、「悪夢」、「夜泣き」などのねぼけ行動や異常行動などを総称して睡眠時随伴症と呼んでいます。レム睡眠時に起こるものとノンレム睡眠時に起こるものに分かれています。レム睡眠時におこるものは60歳以上に発症することがほとんどですが、ノンレム睡眠時に起こるものはほとんどが思春期までに発症します。なお、ノンレム睡眠時に起こるものは、ほとんどが成人するころには自然治癒するそうです。
6:睡眠関連運動障害
睡眠中に単純な体の動きがおきる病気で、身体が動くことにより睡眠が妨げられます。複雑な行動を引き起こす睡眠時随伴症とは異なります。「周期性四肢運動障害」、「むずむず脚症候群」などが代表的で、この2つの症状は同時に現れることが多いそうです。また、睡眠中にこむら返りが繰り返し生じるものも含まれます。
「周期性四肢運動障害」では、睡眠中におもに下肢の筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで中途覚醒が増え、質の高い睡眠が取れなくなります。そのため、日中の眠気や倦怠感が現れます。
「むずむず脚症候群」では、おもに下肢に「むずむず」や「かゆい」、「虫が這う」などの不快な感覚が現れる症状があり、入眠が妨害されてしまいます。
これらの原因と改善のための対策については、次のセッションで説明します。
睡眠障害の原因とその対策
1:不眠症について
不眠には様々な原因があり、それぞれの原因に対する対処が必要となります。主な原因としては、ストレス、心と身体の病気、加齢、薬の副作用、生活リズムの乱れ、環境などが挙げられます。
原因 | 対策 |
ストレス | 原因になっている物事を解消することが最良の対策です。あまり考えすぎないこと、完全を目指さないこと、物事を俯瞰視する、など少し見方や考え方を変えてみることも改善には有効です。 |
心の病気 | うつ病などの心の病気では「早期覚醒」と「日内変動(朝は無気力ですが夕方になると元気が出るてくるような状態)」が同時に現れるため、この場合は、専門医による診断を仰ぐことをおすすめします。 |
身体の病気 | 心臓病、腎臓病、前立腺肥大、糖尿病、喘息、アレルギー、リウマチ、脳梗塞、睡眠時無呼吸症候群、ムズムズ脚症候群などさまざまな病気により引き起こされます。これらの病気の治療をおこなうことで、不眠が解消することが明らかとなっています |
加齢 | 加齢により睡眠時間は短くなるため、睡眠時間や目覚め回数について考えすぎないことが大切です。睡眠は「時間」ではなく「質」が重要になるため、睡眠環境(寝具や温湿度など)を整えることで快眠を図るようにしてください。 |
薬の副作用 | 降圧剤、甲状腺製剤、抗がん剤の副作用で現れることがあります。不眠とこれらの病気のどちらの治療を優先するかをかかりつけ医に相談することをおすすめします。コーヒーなどに含まれるカフェインには覚醒作用と利尿作用があり睡眠を妨げるため、寝る数時間には摂取を控えることが望ましいです。また、たばこに含まれるニコチンにも覚醒作用があるため、寝る前の服用はお控えください。 |
生活リズムの乱れ | 夜更かしや夜に明るい光の下で行動すると睡眠のリズムが崩れてしまいます。これは交代勤務でも同様です。できるだけ規則正しい生活を心がけることが大切です。交代勤務の場合は、日勤勤務の期間は朝の光を浴びることで体内時計の調節に努め、睡眠のリズムを戻すことが大切になります。 |
環境 | 家の内外の騒音や光が安眠を妨げます。また、適切な寝具や寝室の温湿度が快眠には重要となるため、睡眠環境を見直すことが大切になります。 |
2:過眠症について
「ナルコレプシー」では、覚醒に深く関わり、覚醒を維持する働きがあるオレキシンという神経伝達物質を作り出すことができなくなるために、日中に突然の睡魔に襲われ居眠りをしてしまいます。
原因 | 対策 |
ナルコレプシー | オレキシンに代わる日中の眠気を抑制できる中枢神経刺激薬を服用することが必要です。ただし、対症療法であり、毎日の服用が必要となります。様々な種類の薬が開発されていますが、肝臓障害などの副作用もあるため、専門医の指示に従って適切に使用することが求められます。 |
3:睡眠呼吸障害について
「睡眠時無呼吸症候群」では、眠り始めると呼吸が止まり、酸欠状態におちいるため睡眠が中断します。再び眠りが再開されても再び呼吸が止まり、深い睡眠をとることができなくなるために慢性の睡眠不足となり、日中に強い眠気が生じます。
「上気道抵抗症候群」や「習慣性いびき」では睡眠時無呼吸症候群を伴いませんが、いびきを繰り返すことにより呼吸が浅くなり、中途覚醒が増えることで睡眠の質が低下し、慢性の睡眠不足が生じます。
原因 | 対策 |
睡眠時無呼吸症候群 | 肥満や呼吸器疾患(喘息、気管支炎など)により悪化するため、ダイエットや病気の治療が必要となります。専門医の診察を受け、治療をおこなうことで質の高い睡眠が取れるようになれば、症状は劇的に改善します。 |
上気道抵抗症候群 習慣性いびき |
肥満などの生活習慣病の改善が最も効果が高いですが、気道狭窄などが原因になる場合もあるため、耳鼻咽喉科と内科の両方での診察をお勧めします。また、睡眠前の飲酒、横向きに寝るなどの対策はいびきの改善につながります。なお、いびきについては適切な寝具を選ぶことでも改善効果が期待できます。 |
4:概日リズム睡眠障害について
体内時計は約1日のリズムに調節されていますが、外界と同じ24時間ではなく25時間周期になっています。そのため、体内時計を毎日リセットし、24時間周期に合わせないと概日リズムに問題が生じます。
原因 | 対策 |
外因性のもの | 朝日を浴びて、体内時計をリセットすることが大切になります。ただし、交代勤務者の場合は、日勤シフト時での朝日によるリセットが重要です。なお、起床直後の光による覚醒効果および体内時計リセット効果は、そのあとの朝食の摂取、排便などとセットにすることでより高い効果をもたらすため、是非とも生活習慣のリズム化をこころがけてください。また、寝具や温湿度などの睡眠環境を整えることで睡眠の質が良くなるため、これらを見直すことも大切です。 |
内因性のもの | 規則正しい生活習慣をこころがけること、寝具や温湿度などの睡眠環境を整えること、カフェインなどの覚醒効果を持つ成分の摂取を減らすこと、睡眠を調節する働きがあるメラトニン(ホルモンの1種)を服用して概日リズムを整えること、などが考えられます。外因性の場合とは原因が大きく異なるため、早期に睡眠関連の専門医の診断を受け、治療することが必要です。 |
5:睡眠時随伴症について
ノンレム睡眠に生じるもの(代表的な症状は、夢遊病、夜泣きなど)については、深い眠りに起きるため、本人を起こして自覚させることは難しいです。このときは深い眠りから不完全に覚醒した状態、つまり「寝ぼけ」の状態にあると考えられています。まれに、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系など)の副作用として発生することがあるそうです。
一方、レム睡眠に生じるもの(代表的な症状は、悪夢、寝言など)については、レム睡眠行動障害と呼ばれ、加齢や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病などで生じることが多いようです。レム睡眠中の「筋肉緊張を低下させる神経調節システム」に問題がおこることが原因です。また、様々な神経疾患と関連しているとも考えられており、抗うつ薬の副作用として現れる場合もあります。
原因 | 対策 |
ノンレム睡眠でのねぼけ | 大切なことは、ストレスを与えないようにすることです。また、快適な睡眠環境を整えることも重要です。ほとんどが小児期に始まり、思春期に自然に治癒することが多いため、成人の治療はごくまれです。ただし、症状が重い場合には、寝室の安全環境の見直しや施錠、薬の服用などの処置がおこなわれます。 |
レム睡眠での神経調節機構の乱れ | 特に本人のストレスの軽減を図ることや快適な睡眠環境を整えることが大切です。症状が重篤な場合、神経疾患治療薬やてんかん薬などの服用が必要になります。また、身体の安全を考慮し、寝具や寝室の安全環境の整備や必要に応じて施錠などの対処も行なわれます。 |
6:睡眠関連運動障害について
貧血や腎不全などの鉄が不足する病気がある場合に出現することが多いそうです。これは、「鉄不足が原因でドパミン(中枢神経系に作用する神経伝達物質のひとつ)の産生が抑制される」ことが要因であると考えられています。
原因 | 対策 |
鉄不足 ドパミン不足 |
鉄剤およびドパミンの働きを助ける薬(ドパミン系薬剤、非ドパミン系薬など)が治療薬として有効です。貧血など他の病気が原因であることが多いため、気になる症状があればすぐに専門医の診察を受けてください。なお、ドパミン系薬剤は中枢神経系に働く薬であり副作用もあるため、医師の指導による適切な薬の服用が必須です。 |
現代社会では、24時間ずっとサービスが提供される業種が増え、規則正しい睡眠や質の高い睡眠を取ることが難しくなっています。そのため、ストレスも増え、特に不眠症になる人が増え続けています。なお、睡眠障害の改善のためにヤクルト1000のような健康食品に注目が集まることもうなずけますが、上記したとおり別の病気が原因となって引き起こされる睡眠障害もありますので、気になる症状がある場合は、専門医の診察を受けるようにしてください。超高齢化社会を迎えた今、健康維持には正しい治療と対策が必要となります。
この記事を読んだ方が、「睡眠と健康」について関心を持ってくださり、何らかの行動を始めていただければ幸いです。
参考資料
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部 | 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部 (ncnp.go.jp)