「認知症」という病名は皆さんにとってもポピュラーな用語ではないでしょうか?
高齢化が進む中、多く耳にする用語だと思います。
それでは、認知症には種類があることはご存知でしょうか?
認知症は主に、「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」
「血管性認知症」「その他の認知症」に分けられます。
その中で今回は、「血管性認知症」について解説していきます。
- 血管性認知症の症状や特徴について知りたい
- 血管性認知症の治るの?
- 血管性認知症の方へどのように対応したらいい?
このような方は、是非この記事を参考にしてみてください。
血管性認知症とは?
血管認知症とは、脳の血管に異常が起きて認知症になるものをいいます。
ここでいう「脳の血管の異常」とは、脳梗塞や脳出血などを指します。
また、脳梗塞、脳出血が原因による認知症の他にも、「片麻痺」「言語障害」など、様々な症状を合併する事が多々あります。
それでは、どのような原因やメカニズムでこれらが起こるのでしょうか?
血管性認知症が起こる原因とメカニズム
血管性認知症の原因
「脳の血管に異常が起きて認知症になるもの」と上述しましたが、それらには主な原因があります。
- 高血圧
- 糖尿病
- 動脈硬化
- 心房細動
- 喫煙
- 肥満
- 加齢
これらが血管性認知症を引き起こす原因です。
更に、「加齢に伴うもの」「生活習慣によるもの」などに分けられます。
生活習慣によるもの
高血圧 | 糖尿病 | 肥満 |
・塩分の過剰摂取
・過剰な飲酒 ・精神的ストレス ・肥満 |
・糖分の過剰摂取
・肥満 ・遺伝的要因 ・運動不足 |
・過剰摂取(食べ過ぎ)
・運動不足 ・食べ方の異常
|
それぞれが、相互に作用して危険因子になっていますね。
加齢に伴うもの
高血圧 | 動脈硬化 | 心房細動(不整脈) |
・血管の弾力性が低下
・自律神経の低下 |
・血管の弾力性が低下
・生活習慣も起因する |
・心臓機能の低下
・糖尿病、呼吸器疾患などに起因する |
このように血管性認知症を引き起こす原因は、身近な日常生活上にも潜んでいることがお分かりいただけたでしょうか?
続いて、血管性認知症が起こるメカニズムを解説します。
血管性認知症が起こるメカニズム
[身体の状態] 加齢による動脈硬化、高血圧、肥満(脳の血管に血栓ができやすい状態) |
[行動] トイレから立ち上がる、入浴後に脱衣所への異動(気温や姿勢の変化により血圧が変化。脳の血管に影響が出る) |
[結果] 脳梗塞、脳出血を発症する |
[後遺症] 血管性認知症、片麻痺、言語障害などの出現 |
以上、メカニズムについてまとめました。
このような、様々な要因が重なり血管性認知症が起こります。
加齢や生活習慣により脳梗塞、脳出血が発生し、その結果血管性認知症が起こるのです。
それでは次に、男女比、特徴やその他の認知症についても詳しくみていきましょう。
血管性認知症の男女比、全体の人数
そもそも認知症患者は何人くらい?
認知症患者は、全国で約600万人いるとされています。(令和4年現在)
その中でも血管性認知症の割合は約20%を占めており、およそ120万人です。
その他の認知症の割合は、アルツハイマー型認知症「67%」レビー小体型認知症「5%」その他「10%」となります。
血管性認知症患者は、認知症では2番目に多いということですね。
血管性認知症の男女比は?
男女比は、60〜70代の男性が多く、女性の2倍程度とされています。
高血圧、糖尿病、肥満なども男性が多いことからも、比例して男性が多いのです。
血管性認知症の特徴
続いて、血管性認知症の代表的にあげられる特徴について解説します。
まず、認知症には中核症状と周辺症状(BPSD)があります。
中核症状 | 周辺症状(BPSD) |
|
|
これらは、あらゆる認知症に共通して現れる症状です。
さらに、認知症にはそれぞれ特徴があります。
では、血管性認知症の特徴はどんなものがあるのでしょうか?
- まだら認知症と呼ばれる(脳の損傷部位で残存機能に差がある)
- さまざまな症状が併発する可能性がある
- 一日の中で、症状に変動が起きる
- 階段状に進行していく
まだら認知症と呼ばれる
血管性認知症は、別名「まだら認知症」と呼ばれることがあります。
なぜなら脳の損傷部位によって、全く脳にダメージが無く、残存機能がある
(まだらに症状が現れる)ためです。
例えば「アルツハイマー型認知症」の場合、脳全体が萎縮するため、症状が満遍なく出現します。
つまり、血管性認知症の場合は、上述した通り脳梗塞や脳出血の影響によって症状が現れるため、それぞれの症状の強弱が大きいのです。
さまざまな症状が併発する可能性がある
上述しましたが、さまざまな症状が併発することも多々あります。
脳はそれぞれの部位ごとに機能が備わっており、その部位が損傷されると後遺症が現れるのです。
代表的なものは、「運動麻痺」「知覚障害 」「言語障害(失語症)」などです。
一日の中で、症状に変動が起きる
その日の体調によって、症状に変動が起きることも特徴の一つです。
これは、症状に対して本人の自覚があり、その結果感情的になってしまう(抑うつ、怒りの感情)ためです。
また、感情コントロールが利かないこともあり、怒りや悲しみを表出しやすく(感情失禁)なります。
階段状に進行していく
アルツハイマー型認知症は徐々に進行していきますが、血管性認知症は「階段状」に進行していきます。
これは、脳梗塞、脳出血などの再発があるためです。
つまり、それらの再発及び脳の新たな部位の損傷が起きることで、一気に進行する可能性があるということです。
ここまでは血管性認知症について解説しました。特徴やメカニズムについて、お分かりいただけましたか?
次は補足として、その他の認知症についても少し説明します。
病状を知ることで、認知症を有する方の理解にも繋がるからです。
その他の認知症について
それでは、代表的な認知症についてできるだけ簡潔に解説していきます。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 若年性認知症
アルツハイマー型認知症
65歳以上の人では、最も多い認知症。脳の神経細胞が緩やかに減っていくため、
進行も緩やかである。
多くみられる症状として、記憶障害(もの忘れ)がある。
また、男女比は女性が多い。
レビー小体型認知症
レビー小体と呼ばれる物質が大脳皮質にたまることで起こる認知症。
75〜80代に多く、男女比は男性が多い。
多くみられる症状として、記憶障害、幻視(窓際に人が立っているように見えるなど)がみられる。
また、初期状態からパーキンソン症状(筋肉の強張り、動作緩慢、振戦など)が出現する。
前頭側頭型認知症
主に、前頭葉と側頭葉が萎縮される。
前頭葉は「人格・社会性・言語」を、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を
主につかさどっており、障害されることで特徴的な症状が現れる。
多くは70歳未満で発症する。
若年性認知症
65歳未満の人が発症する認知症。発症年齢で区分けされた総称である。
中でも、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」が多くみられ、全体の6割を占める。
これらの主な症状は以下にまとめました。
アルツハイマー型認知症 | レビー小体型認知症 | 前頭側頭型認知症 | 若年性認知症 |
・記憶障害
・見当識障害 ・判断力の低下
|
・記憶障害
・幻視 ・手足の振戦 ・筋肉の強張り |
・社会性の欠如
・抑制が効かない ・感情の鈍麻 ・言葉のオウム返し |
認知症の種類に起因した症状が出現 |
その他の認知症について、なんとなく理解していただけたでしょうか。
ここまでお読みになった方は、おそらく「認知症は治るのだろうか?」とお考えだと思います。
血管性認知症は治るの?
結論、現在の医学では一度失われた脳の神経細胞は元に戻すことはできません。
(血管性認知症を含む、殆どの認知症も同様)
治療では、主に基本的に再発防止やリハビリテージョンがメインになります。
具体的な治療法
- 生活習慣の見直し
- 薬物療法
- リハビリテーション
生活習慣の見直し
脳梗塞、脳出血の再発防止のため生活習慣を改善します。
具体的には、食生活の見直し、運動不足の解消などを行い危険因子を取り除きます。
薬物療法
脳梗塞、脳出血の再発防止のために、抗血栓薬(血液をさらさらにする)や高血圧薬などを服薬します。
また、それらの副作用として抑うつ状態や無気力状態があるため、抗うつ剤などが使用されるケースもあります。
リハビリテーション
- 理学療法士、作業療法士による心身機能を維持、向上させる機能訓練
- 失語症、嚥下障害における言語聴覚士のリハビリテーション
元に戻ることは現状の医学では難しいですが、ご本人の残存機能を維持、向上や再発防止が大切といえます。
血管性認知症の人への対応
また、血管性認知症の方は症状を自覚している場合が多いことや様々な合併症があり、それを踏まえた対応が重要になります。
具体的には、
- 環境調整
- ご本人への対応(病状の理解)
- 介護施設などの検討
これが重要なポイントです。
環境調整
後遺症として多いのが、片麻痺です。片麻痺は身体の半側の自由が利かないため、発症前より転倒リスクが高いといえます。
転倒を予防するために、福祉用具の活用や、生活上の同線の確保などを工夫する必要があります。
ご本人への対応
- 残存能力を理解する
- 感情失禁や感情のアップダウンに流されず、距離をとることも大切
- 生活習慣のコントロールやリハビリテーションは、焦らずにゆっくり取り組む
- 失語や麻痺(片麻痺、嚥下障害など)によるコミュニケーションの障害を理解する
介護施設などの検討
- 介護老人保健施設の利用
- デイサービス、デイケアの利用
- ショートステイの利用
これらのサービスは、ご家族の負担軽減、ご本人のリハビリテーションなどを目的としたもです。
サービスをうまく活用することで、互いに日常生活をスムーズに送ることが期待できます。
血管性認知症の対応では、併発した症状やご本人のニーズ応じて、多様なサポートを柔軟に利用しながら、再発防止もリハビリテーションも気長に、見守るように接することが大切です。
まとめ
今回は、血管性認知症の男女比、概要、対応方法などについて解説しました。
- 血管性認知症は脳の血管の異常によって起こる
- 男女比は、男性が女性の約2倍多い
- 症状が完全に回復することは難しいが、残存機能を維持、向上するのが大切
- ご本人のニーズや併発する症状の理解をし、気長に見守るように接する
以上がポイントのまとめです。
現在、日本は高齢化社会が進行しており、皆さんが認知症などの病気に接する機会は今後増えていくでしょう。それぞれの病状や対応方法を理解することは、実際に患者様などに遭遇した際に、落ち着いて考えることができると思います。
そして、よろしければ今回の記事内容を参考にしてみてください。
少しでも皆さんのお役に立てたら嬉しいです。