「前頭側頭型認知症って一体どのような病気なの?」
「どのような人が認知症になりやすいの?」
「症状はどんなものが見られるの?」
前頭側頭型認知症と聞いて、上記のような悩みを感じていませんか?
日頃あまり耳にすることのない認知症の名前を聞いて、驚かれた方もおられるかもしれません。
今回の記事では、認知症の1つである前頭側頭型認知症について分かりやすく紹介しています。
診断基準にはどのようなものが定義づけられているのか、また、どのような症状や原因が見られるのかも詳しく解説していきます。
前頭側頭型認知症について何も知らなかった人でも、この記事を読み終わる頃には、前頭側頭型認知症について理解し、日常生活のなかでの異変にも気がつくようになるかもしれませんよ。
そもそも認知症とは?
前頭側頭型認知症について説明する前に、まずは認知症について整理しておきましょう。
認知症とは認知機能の役割を果たす脳の機能が障害されることによって生じる疾患
です。その原因は脳の神経細胞の減少や遺伝子、脳血管の障害など様々です。
認知症の症状には、
中核症状とBPSDと呼ばれる2つの症状
があり、以下のように分類されます。
中核症状
- 物忘れ(記憶障害)
- 行動や認識力の低下(認知機能の低下)
- 今まで出来ていたことができなくなる(遂行機能の低下)
BPSD症状
- 不安やうつ症状などの心理症状
- 不穏、興奮、暴力などの行動症状
これらのような症状が見られたら、認知症になっている可能性が高いです。
物忘れか加齢によるものかの見分け方とは?
物忘れに関しては、加齢による正常なものと判断がつきにくい方もおられるかもしれません。
その場合は以下の点を考えてみてください。
- 忘れている内容が重要なものであるかどうか
- 自覚があるかどうか
- もの忘れの範囲が全体かどうか
- 日常に支障があるかどうか
どういうことなのか、順番に説明していきます。
忘れている内容が重要なものであるかどうか
大事な約束を忘れたり、今までに自分が経験したことを忘れている場合は認知症のサインかもしれないので注意しましょう。
日常生活のなかで、大して重要な内容でないものを忘れている場合は、加齢による物忘れの範囲内です。
自覚があるかどうか
認知症の場合、物忘れをしていることに自覚がありません。また、会話中にも辻褄の合わない場面が見られるようになります。
物忘れがひどくなったと自覚がある方は、加齢のよる物忘れである可能性が考えられます。
もの忘れの範囲が全体かどうか
自身が経験した内容のすべてを忘れてしまっており、「そんな経験はした覚えがない」と話される場合は認知症の可能性があります。
経験の内容の一部を忘れてしまった場合は、加齢による物忘れの範囲内です。
日常に支障があるかどうか
自身の力では生活出来なくなった場合には、認知症の可能性が高くなります。
加齢による物忘れだど、日常生活には支障をきたさないため、自身の力での生活が可能です。
前頭側頭型認知症とは
ここまでの内容を踏まえ、認知症の1つである前頭側頭型認知症について紹介していきます。
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉、側頭葉とよばれる部位が委縮することによって様々な症状が出現するタイプの認知症を指します。
前頭葉と側頭葉は脳の4割を占める重要な器官です。前頭葉は思考や感情の表現、判断をコントロールするのに対して、側頭葉は記憶や感情をつかさどる器官になります。どちらも生きる上で重要なはたらきをしているため、機能が低下することによる影響力は大きくなります。
また、前頭側頭型認知症は他の認知症と違って、指定難病にも登録されている疾患であり、症状も他の認知症とは少し異なります。言葉が出にくくなったり、理性的な行動ができなくなる症状が主であり、幻覚や物忘れなどはありません。そのため、自身が認知症を発症していることに気づかず、診断される頃には進行が進んでいるパターンも見られます。
また、発症時期が40~60歳と比較的若い年齢から発症していることも特徴的です。発症における男女差はありません。
発症後の予後は平均で6~9年とされています。筋力の低下や筋萎縮により自分で身体を支えることができないため、最終的にはほぼ寝たきり状態になります。
前頭側頭型認知症の原因
前頭側頭型認知症の原因は、前頭葉や側頭葉の細胞に限局して病的なタンパク質の蓄積です。細胞に溜まったタンパク質は脳の神経細胞を破壊していき、最終的に前頭葉の委縮を引き起こします。
このタンパク質にはtau蛋白と呼ばれるものとTDP-43と呼ばれるものの2種類があります。
しかし、なぜこのようなタンパク質が作られてしまうのかはまだ原因が明らかにされていません。
また、一部の患者さんのなかには、遺伝子異常が認められ、遺伝することも明らかにされました。ただし、日本の場合は遺伝性のものはほとんど見られていません。
前頭側頭型認知症の診断基準
前頭側頭型認知症の診断基準として、次のような症状が挙げられています。
この6つの症状のうち、3つ以上該当すると、前頭側頭型認知症の可能性が高いです。
- 脱抑制(状況に対して衝動や感情を抑えることが出来ない状態)
- 無気力・無関心
- 共感や感情移入の欠如
- 常同的(同じ言葉や行動を何度も繰り返す)または強迫的(相手に恐怖を感じさせることで、一定の意思表示をさせようとする)な行動
- 口唇傾向(過食や手にしたものを口にいれる)と食習慣の変化
- 特徴的な認知機能障害
これらの症状は、一度にすべて発症する訳ではなく、10年ほどゆっくりかけて進行していきます。
症状の段階として、初期・中期・後期に分類され、それぞれの段階において下記のような症状が見られます。
初期症状
- 無気力、無関心
- 感情の麻痺、共感や感情移入の低下
- 食嗜好の変化
- 社会性の欠如、脱抑制
中期症状
- 同じ行動を繰り返す
- 特定の時間に特定の手順で行動する
- 立ち去り行動
後期症状
- 無気力、無関心の悪化
- 寝たきり状態
前頭側頭型認知症は幻覚や物忘れが症状として見られません。そのため、日頃から人格や行動、嗜好などに変化が起きていないかを注意して確認する必要があります。
前頭側頭型認知症の診断方法
前述したような症状が見られており、前頭側頭型認知症を疑う場合は、まずは精神科や神経内科を受診するようにしましょう。
病院で行われる検査には次のようなものが挙げられます。
- 問診
- CTやMRI検査
- 脳血流シンチグラフィー、PET
それぞれの検査の目的について説明していきます。
問診
問診は普段の様子や行動について本人や家族にいくつかの質問をしていくものです。質問のなかで、前頭側頭型認知症に当てはまる症状がないかを医師が判断していきます。
本人がうまく説明できない場合もあるため、必ず家族が付き添うようにしてください。
CTやMRI検査
問診結果で前頭側頭型認知症が疑われた場合に行われます。もしも発症していた場合、前頭葉や側頭葉に委縮が見られます。
脳血流シンチグラフィー、PET
症状が進行していない場合で必要に応じて行う検査です。脳血流シンチグラフィーは「脳の血流」を、PETは「身体の代謝」を観察することができ、これらの低下が認められた場合は、前頭側頭型認知症と診断されることがあります。
前頭側頭型認知症の治療にはどのようなものがある?
前頭側頭型認知症に対する治療法は
まだ確立していません。
そのため、症状を緩和するための対処療法やケアが、治療の中心となります。
対症療法には、以下のようなものが挙げられます。
薬物療法
こちらは、お薬を使って精神的負担を軽減を図る方法です。
使用するお薬はSSRIと呼ばれる種類のものが多く、精神安定を図る神経伝達物質であるセロトニンの働きを強め、うつや不安を軽減することを目的としています。
作業療法
一方で、こちらは呼吸や発声、発語の練習を行う方法です。
前頭側頭型認知症は言語機能に障害が出やすいため、機能の低下を軽減できるように行います。
前頭側頭型認知症はこだわりを持ちやすいことを特徴とすることから、作業療法を行う際には、そのこだわりを活かすことがポイントです。患者さんが今までの趣味や得意だったことを取り入れることにより、規則正しい日常生活を送ったり、心の安定を図ることにも繋がります。
介護施設や医療機関では、このこだわりを活かし、生活をするうえで支障のある常同行動を支障のないものに置き換えるルーチン療法と呼ばれるやり方も実践されています。
家族の関わりかたも大切!前頭側頭型認知症と向き合うための接し方
日常生活を穏やかに過ごすためには、家族の関わり方も重要です。ここでは前頭側頭型認知症とうまく向き合っていくためにはどのように接したら良いか解説していきます。
接し方のポイントとして以下のようなものが挙げられます。
-
- 自然体で接する
- 無理強いはしない
- 環境を整える
- 行動パターンを知る
- 食事行動の変化に注意する
- 患者さんの出来る力は活かす
1つずつ順番に見ていきましょう。
自然体で接する
まずは患者さんは前頭側頭型認知症であるということを受け入れることが必要です。患者さんが困った行動をしたとしても、それは本人の意思ではなく、症状の1つなのだと捉えるようにしましょう。そのうえで、患者さんとは自然体で接するようにしてください。家族が緊張していると、患者さんは不安を感じ、感情をコントロールしにくくなってしまいます。
無理強いはしない
症状の1つとして見られる常同行動が見られたとしても、無理に制止させることのないようにしてください。無理やり制止しようとすると、かえって怒り出したり、暴力をふるうことがあります。
また、患者さんの記憶力は保たれており、嫌なことをされたときの記憶は残りやすいです。良好な関係を保つためにも、無理強いは避けるようにしましょう。
環境を整える
患者さんは周りの声や音などといった外からの刺激に敏感で、突発的な行動をとることがあります。そのため、作業をするときには静かな場所を提供したり、本人の馴染みのある場所を作り、落ち着くことのできる環境を作るようにしましょう。
行動パターンを知る
患者さんそれぞれによって、行動パターンは異なります。そのため、日常生活のなかで、患者さんがどのような行動をしているのかを観察する必要があります。その行動が周囲の方々にも影響を及ぼす場合、あらかじめ周囲の方々にも説明して理解してもらい、協力を得るようにしましょう。
食事行動の変化に注意する
食べすぎたり、甘いものを大量に摂取したり、同じ食品や料理にこだわるようになるなど、食事に関する変化が起きるようになります。誤嚥や生活習慣病を引き起こすリスクがあるので、本人の目が届く場所に食材を置かないようにする工夫が必要です。
また、食事時間を甘いものを提供する時間を決めておくことも、食べることへのこだわりを減らすことにつながることもあります。
患者さんの出来る力は活かす
患者さんの出来ることに関しては積極的に行ってもらうようにしましょう。患者さんが得意としていることを日課にしても良いでしょう。
前頭側頭型認知症は次第に言葉を発するのが困難になるため、言葉でメッセージを伝えることも次第に困難になります。そのときはジェスチャーや直接物を見せるなど、視覚で捉えられるようにし、本人の出来る能力を活かしたコミュニケーションをとるようにしましょう。
患者さんとの関わり方を工夫することにより、患者さんだけでなくご家族の方々の精神的負担の軽減に繋がります。関わり方に思い当たることがある場合は、一度見直してみると良いでしょう。
まとめ
今回の記事では、前頭側頭型認知症の診断基準や症状の他にも、下記のような内容についても紹介してきました。
- 前頭側頭型認知症は他の認知症と違って言語機能に障害を起こしやすく、症状はゆっくりと進行していく
- 治療法はなく、対症療法を用いて関わっていく
- 患者さんに対する家族の関わり方も重要
突然家族が前頭側頭型認知症の診断を受けたとしても、何も知らなかったらどのように対応したら良いかわからず不安に感じるかもしれません。今回の記事を読むことにより、患者さんとの関わり方が前よりも分かるようになって頂ければ幸いです。
ここまでご覧頂き、ありがとうございました。