何らかの症状で受診をし、医師による判断で気管切開が必要になってしまった方やそのご家族は、未来への不安が湧いてくることと思います。
「気管切開って何?」「食べることは出来るの?」「一生取り付けていなければいけないもの?」
などの疑問に対し、一つでも多く理解を深めることが不安への対処の第一歩。
この記事では、専門用語をなるべく使わずに気管切開についてご説明していきます。
気管切開とはどんな手術?
気管切開とは気切と省略されることもあり、喉から気道までを切開することで呼吸をしやすくしたり、たんを出しやすくするための手術です。
呼吸をするときに吸った空気は気管を通して肺に送られます。何らかの原因で気管が狭くなっている方には呼吸がしづらい、たんを自力で出すことができないなどの症状が起こってしまいます。気管切開をすることで空気が肺に行き渡りやすくなり、たんも吸引しやすくなるのです。
一般的には、切開した部分の穴が塞がらないように管(気管カニューレ)を入れます。必要な場合はそこに人工呼吸器を装着することもできます。
気管カニューレとはどんなもの?
気管カニューレとは、切開した部分の穴が塞がらないようにするために導入する器具です。様々な種類があり、患者の症状に合わせたものを選択します。
気管カニューレを装着した後は、一般的に2~3週に1回程度の交換が必要となってきます。定期的な交換だけでなく、たんによる詰まりが疑われているときや汚れているときにも交換が行われます。原則として医師に交換を行ってもらいますが、気管カニューレが突然抜けてしまったときなど緊急時には家族が行わなけばいけない場面もあります。
また、気管カニューレを導入する際には事故やトラブルを防ぐために、毎日のケアや管理がとても重要です。
気管カニューレから気道に直接空気が入ってくるため、肺炎を起こしやすいといわれていたり、気管カニューレが抜けたりすることや、たんや汚れによって塞がってしまうと緊急処置が必要となることもあり得るのです。
その他、気管カニューレを固定するバンドの刺激による皮膚の炎症といったトラブルも起こりやすいです。
このようなトラブルや事故を防ぎ、安全に過ごすためにも家族のサポートの重要さが伺えます。
具体的にどのようなケアが必要になってくるのでしょうか。
手術後の生活に必要なケアは?
手術後、7日〜2週間後に気管カニューレの初回の交換や抜糸などが行われます。
その後は、家族のサポートのもと毎日のケアや観察を適切に行なっていく生活が始まります。
退院前に、生活での注意点の説明を受けます。気管カニューレが抜けてしまわないように意識をしておくこと、気管カニューレが塞がってしまわないようにする吸引法、万が一抜けてしまった時の緊急対応の方法など、医師や看護師が指導してくれます。
手術後の毎日のケアをどのようにおこなっていくかしっかりと説明を受けて、不安や疑問を一つでも解消しておくと良いですね。
定期的に必要なケア
- 気管カニューレの交換
たんや汚れがたまると当然詰まりが生じます。詰まりによる窒息を防ぐために、気管カニューレの交換が必要です。
一般的に2~3週間に1回程度の交換が必要となってきます。定期的な交換時ではなくても、たんによる詰まりが疑われているときや汚れていることがあれば交換をしなければなりません。また、原則として医師に交換を行ってもらいますが、気管カニューレが突然抜けてしまったときなど緊急時には家族が行わなけばいけない場面もあります。
毎日必要なケア
- 口腔のケア
食べ物や飲み物を口から摂取できない方であっても口腔ケアが必要となってきます。口の中には常在菌があり、清潔にケアをしなければどんどん増加していきます。増加した菌が体内へ入っていくことによって感染症や合併症、肺炎などの恐れがあります。手術後は免疫力も低下しているのでより重要になってきます。食事をしていなくても毎日必ず歯磨きや専用のスポンジ、ガーゼで口の中を清潔に保つケアが必要です。
- 手術部位の皮膚を清潔に保つ・ガーゼなどの交換
お風呂に入って手術部位を洗うことができないため、ガーゼの交換を毎日行い、傷口の清潔を保つ必要があります。傷口に菌が繁殖することにより感染症に繋がるリスクがあります。一見汚れていないように見えても汚れや菌は溜まっていくので注意しましょう。
- 加湿ケア
本来、人は鼻呼吸時に空気を加湿して体内に取り入れます。気管カニューレを取り付けている方は、鼻腔で加湿されることなく体内に入っていきます。乾燥した空気で気道も乾燥し、感染症や合併症のリスクを高めてしまいます。一般的には人口鼻という加湿ができるフィルターを使用して加湿をします。反対に加湿をし過ぎるとたんが詰まりやすくなるリスクもあるのでバランス良く行うことが大切です。
- 固定バンドの調節
気管カニューレを固定するためにバンドを使用しています。このバンドが緩んでしまうと気管カニューレが外れやすくなってしまいます。反対にきつすぎても皮膚の炎症などにつながるので日々上手く固定できるように調節が必要になってきます。
このように毎日のケアも気にかけておくこともたくさんあります。一番苦しいのは患者ご本人かもしれませんが、家族のサポートで精神的にも救われるはずです。家族がするべきケアの不安は遠慮なく医師や看護師に相談しておくとよりスムーズに生活がおくれることでしょう。
気管カニューレは一生取り外せないの?
手術をして気管カニューレを取り付けることでの不安は、一生付き合っていかなければならないのかという点ではないでしょうか。
結論から言うと、取り外せる場合もあるようです。ただし条件が大きく二点あります。
- 唾液や口から取り込んだものにより誤嚥(誤って喉や気管に入ってしまうような症状)がないこと
- 気管カニューレなしの状態で呼吸が安定してできること
呼吸をしやすくしたり、たんを出しやすくするために行った手術ですので、症状が改善されて健康に支障がないところまで回復した場合取り外しが期待できます。現在の病気が改善が見込めるものであれば取り外せる可能性があるということですね。取り外すために実施できるリハビリやトレーニングも患者の状態に合わせて病院にて指導してもらえます。患者ご本人の強い意思があればきちんと専門家の指示を受け、取り外しに向けた取り組みをしてみるのもよいかもしれません。
気管切開後の生活は普通に送れるの?
手術部位に対して、普段よりも注意しなければならないことがいくつかあります。生活において誰でも重要になってくるポイントを見ていきましょう。
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- 食事
飲み込みを行う機能に問題がないと医師が判断した場合は、食事をすることが出来ます。
しかし、嚥下機能(口の中のものを飲み込み、胃へ送る機能)が不完全であったり、誤嚥(誤って喉や気管に入ってしまうような症状)のリスクがある場合は口からの摂取を全て禁止されることもあります。
- 退院して在宅することは可能?
手術後も様々なケアが必要です。気管切開後患者が退院可能で自宅での生活をするためには、介助者の存在が必要不可欠となります。
- お風呂・シャワー
手術を行った箇所に注意をして、入浴やシャワーをすることが出来ます。
一般的には、湯船に浸かる際は胸の高さまでにする、気管切開孔からお湯が入ってこないように専用のビニールをかけるなどをして入浴を行います。
- 就寝時
就寝時は、無意識な行動が避けられません。布団や毛布により気管切開部が塞がれてしまわないように注意が必要です。
また就寝中もたんがつまらないよう吸引が必要となる場合もあります。
- 外出時
医師による判断があれば同行者無しで公共交通機関を利用しても問題がないとされています。一般的には以下を満たす方が当てはまります。
- 食事
- 基本的に気管カニューレからの吸引が必要ない場合
- 必要時に気管カニューレからの吸引を自分で行えること
- 気管カニューレを自分で外してしまう(認知症など)リスクがない場合
- 塞がれないように注意自分で注意できる場合
- 気管切開以外の持病やリスクがない場合
このように思い浮かべてみると手術後の生活は、普通の生活に比べて安易なものではありません。ですが、一番は患者様の命を守ることを軸に考え医師の皆さんは判断をしています。まず、冒頭で述べたように、何らかの原因で気管が狭くなっている方は、呼吸がしづらい、たんなど気道分泌物を自力で出すことができないなどの症状が起こってしまいます。そうすると、呼吸不全につながり命の危険があるため手術を行うのです。
デメリットを踏まえても、気管切開をするメリットの方が大きいと医師が判断するのはどのような状況でしょうか。
気管切開が必要な人
加齢や持病により口の中の食べ物を飲み込み胃へ送る機能が低下し、たんが自分で出せない方
この方は、日常的にたんの吸引を行う必要があります。口や鼻から吸引チューブを挿入して吸引する事も可能ですが、症状がなかなか安定しない場合には、より吸引をスムーズに行える気管切開がよいと判断されることもあります。
長期的にチューブをつけて呼吸を安定する必要がある場合
この方は一つの方法として、口や鼻から長いチューブ(挿管チューブ)を入れ気道を確保する方法があります。しかしチューブは些細なことでズレてしまう危険性が高く、安心出来ません。また、自分でチューブを抜いてしまうリスクも高く、自分で抜いてしまうことを阻止するための処置をしなければなりません。たとえば鎮静や抑制処置です。それは患者本人が苦しい思いをしてしまうことに加えて、筋力が落ちてしまう、寝たきりになってしまうというリスクがあります。そのため、長期的にチューブをつけて呼吸管理が必要な場合、気管切開の方がメリットが大きいと考えられます。
人工呼吸器の装着が必要な場合
一時的な人工呼吸器の装着であれば、チューブによる処置が可能です。しかし長期的に人工呼吸器の装着が必要な場合、先に述べたようにリスクがあり、気管切開のほうがメリットが大きいことになります。また、人工呼吸器が必要な状態とは自身の力で呼吸を安定して行えない状態です。チューブよりも、気管切開をして気管カニューレを取り入れるほうが効率的に肺に空気を送り込むことが出来るので安心です。
喉や気道が狭く息ができない状態
のどや気道が狭い方はチューブを入れることが大変難しく、気管切開を余儀なくされることがあります。そのため、気管切開が適切であるとされています。気管切開を行い気管カニューレを取り入れることで人工呼吸器の装着が可能となります。
気管切開のメリット・デメリット
命を守るためや生活がしやすくするためのメリットがある一方で、デメリットと思われるリスクや家族への負担、ご本人のメンタルや体調への負担もあります。デメリットもきちんと把握しておくことで、ギャップを少なくしたり、異常と思われる状態を発見できたり、緊急時の対応能力も上がります。
メリット | デメリット |
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気管切開についてのまとめ
- 気管切開とは喉から気道までを切開し、呼吸をしやすくしたりたんを出しやすくするための手術
- 気管切開をすることで呼吸不全による命の危険をさけることができる
- 気管カニューレ装着後は毎日のケアや介助が必要不可欠だが将来取り外せる可能性もある
- 気管切開のデメリットは感染症へのリスクや身体への負担
この記事では、気管切開と気管カニューレについて、手術後の生活について、気管切開が必要な理由、デメリットなどをご紹介しました。医師による判断で気管切開が必要になってしまったかたやそのご家族は、その後の生活で必要な様々なケアやデメリットから不安が湧いてくることと思います。
医師や看護師からしっかりとサポートを受けながら症状の改善に向けて前向きにケアに取り組めますように。この記事が少しでもお役に立てたら幸いです。最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。