「パーキンソン病になりやすい性格だったらどうしよう」
「パーキンソン病になると性格が変わるの?」
「パーキンソン病になっても性格よく過ごしたい」
このようにお考えの方がいらっしゃるかもしれません。
ところで、パーキンソン病になりやすい性格があるというのは本当でしょうか?
パーキンソン病と性格の関係を知るには症状や原因を考えることが大切です。
今回は性格がパーキンソン病の原因だと噂される理由を症状や原因にふれつつ解説します。
パーキンソン病との付き合い方もご紹介しますので、参考にしてくださいね!
パーキンソン病の人に多い性格
体のふるえや姿勢を保つのが難しくなる進行性の疾患、パーキンソン病。
運動機能にかかわる神経が時間をかけて障害を受けていく神経変性疾患。
パーキンソン病患者さんがパーキンソン病になる前の性格は内向的、無口、陰気が多いと言われています。
しかし、これらの性格であればパーキンソン病になりやすいという科学的根拠はありません。
パーキンソン病と性格の関連
実は、パーキンソン病を引き起こす真の原因は未解明。
一方で、パーキンソン病の原因を特定しようとする過程で、性格とパーキンソン病との関連が指摘されてきたのは事実です。
では、性格とパーキンソン病にはどのような関係があるのでしょうか。
➀パーキンソン病患者の病前の性格傾向
日本人のパーキンソン病患者さんを対象にした調査では、先にお伝えしたように、発症前に多いとされる性格は無口、内向的、陰気という研究結果が示されています。
②病前のライフスタイルと性格の傾向
パーキンソン病患者さんの発症前のライフスタイルとパーキンソン病ではない人のライフスタイルを比べると、運動をする習慣が少なく、満足した睡眠がとれていないことが特徴。
これらのライフスタイルをとる人は
- 几帳面
- 緊張しやすい
- 徹底的にものごとへ取り組む
といった性格が多い傾向にあります。
つまり、パーキンソン病患者さんの発症前のライフスタイルと性格は関連しているということです。
③パーキンソン病の症状と性格
パーキンソン病であらわれる症状には運動症状と非運動症状があることを以前にご紹介しました。
非運動症状のうち、あたかも症状が患者さんの性格のようにみなされてしまったり、パーキンソン病になって性格が変わったようにみえたりする可能性がある症状をより詳しくご紹介します。
睡眠障害
睡眠障害があると日中の活動へ支障がでたり、睡眠中に通常は観察されない行動をとったりする場合があります。
パーキンソン病にみられる睡眠障害は次のとおりです。
- 熟眠障害:不眠症の一つで、ある程度の睡眠時間をとっても、よく眠れたという感覚が得られない障害
- 不規則睡眠・覚醒リズム障害:眠ってもすぐに覚醒状態になり、睡眠状態を4時間以上維持するのが難しくなる障害。そのため、昼寝を頻繁にしてしまいます。
- レム睡眠行動障害:眠っている間に夢での行動を実際にとってしまう障害。骨格筋の制御ができないために殴る蹴るといった激しい行動があらわれたり、寝言で夜間に大きな声を出してしまったりします。
- 治療薬の副作用による突然の眠気
精神症状
精神症状がでると、周りの人が見たり聞いたりしていることとパーキンソン病患者さんの言う内容が食い違うかもしれません。
また、パーキンソン病になる前と比べて意欲的ではなくなってしまうこともあります。
具体的には、以下のような症状です。
- 幻覚(幻視・幻聴・体感幻覚):治療薬による副作用
- 妄想(嫉妬妄想・被害妄想):治療薬の副作用による場合や精神的ストレス、肉体的ストレスが極度にかかった場合に引き起こされます
- うつ:パーキンソン病に多く合併する精神症状です。パーキンソン病の人にあらわれるうつ症状で希死念慮が含まれるケースは少数。意欲やポジティブな感情がわかず、理由なく不安にとらわれるのが特徴です。患者さんのうち40%程度に併発しているとされています。
- 衝動制御障害:成人には1%の割合でみられる障害で、パーキンソン病患者さんのみに着目した場合はより高い確率で観察されます。賭け事にはまって抜けられない、使わないものでもたくさん買ってしまう、性的な行為を抑えられないといった行動が生活を崩壊させてしまうほどに激しいものである場合をいいます。
性格でパーキンソン病を予測できない理由
次に、性格からパーキンソン病のなりやすさを予測できない理由も詳しくみていきましょう!
➀パーキンソン病の原因と性格
パーキンソン病は、原因となりうる多くの要素が互いに影響しあうことで発症する疾病と考えられています。
表のとおり、パーキンソン病になる前の性格(表中の病前性格)はたくさんある原因要素の一部とされています。
(出典:中島健二, & 楠見公義. (2004). パーキンソン病の疫学. 脳の科学編集委員会編. パーキンソン病のすべて. 東京: 星和書店, 27-31.)
また、表の全ての要素を満たした人が必ず発症するわけでもありません。
パーキンソン病は基本的に遺伝しない孤発性で、例外的に5%〜10%の範囲で家族内に発症します。
パーキンソン病患者さんがパーキンソン病の人と同じ性別の子どもを育てたとしても、発症するとは限らないということです。
このように、パーキンソン病患者さんが持っていた要因(宿主側要因)とパーキンソン病になった人がおかれている環境の要因(環境要因)が影響しあって発症すると推測されています。
それゆえ、パーキンソン病ではない状態で特定の性格に当てはまるからといってパーキンソン病になりやすいわけではありません。
②発症は黒質ドパミン神経細胞の減少
以前の記事でもパーキンソン病が引き起こされる理由をご紹介しましたが、黒質ドパミン神経細胞が減ることで症状がでます。
しかし、黒質ドパミン神経細胞が減る理由自体はわかっていません。
パーキンソン病になりやすい性格があるというには、ドパミン神経細胞の減少に性格が影響していると断定する必要があります。
しかし、性格が黒質ドパミン神経細胞を減らすという根拠はありません。
③因果関係と傾向の違い
科学において「AとBには関連(傾向)がある」と表現するとき、直接的または間接的にAとBとの間に関係性があることを意味します。
つまり、「AだからBという結果を予測できる」という直接的な因果関係だけを意味するわけではないということです。
同様に、「パーキンソン病と特定の性格には関連がある」という研究結果があったとしても、「特定の性格であればパーキンソン病になりやすい」とは限りません。
無口や内向的といった性格に当てはまっても、将来的にパーキンソン病になる可能性が高いという因果関係を示す科学的根拠はないので、安心してください。
④性格テストによって異なる結果
研究で使用される性格テストや調査が実施される時代によって、パーキンソン病と関連があるとされる性格が異なります。
どの調査結果でも、パーキンソン病患者さんには非社交的な性格傾向がみられてきました。
一方で、さらに詳細な性格項目(がんこ、几帳面、無口など)については、パーキンソン病患者さんに多いとされる性格が各調査結果で違っています。
パーキンソン病の治療と付き合い方
パーキンソン病患者さんの寿命は全体の平均寿命より2〜3年短い程度と報告されています。
現在でも神経細胞の障害を止める治療法はありませんが、症状を緩和する治療薬ができたため、命への影響が少なくてすむようになりました。
本サイトでは、以前にパーキンソン病の運動症状の治療について解説しました。
実は、パーキンソン病患者さんの運動症状の治療効果を高め、生活の質(Quality of Life; QoL)を上げるには、非運動症状も緩和する必要があります。
そこで、非運動症状を緩和してQoLを高めるために大切な対処法をご紹介します。
➀非運動症状の治療
運動症状と同じく薬物療法が用いられる場合が多く、軽度の場合は生活指導によっても改善される場合があります。
幻覚・妄想の治療
病状が日常生活にどれほど影響しているのかを把握し、日中の活動量を増やしたり、規則正しい生活をおくったりするための生活指導がなされます。幻覚を悪化させている副作用のある治療薬については服用を中止し、改善が見られない場合は症状に応じたものを追加で投薬します。
認知機能障害の治療
意欲の低下に対しては薬物療法が用いられます。
自律神経症状の治療
基本的に薬物療法。
便秘に関してはプロバイオティクスの服用、有酸素運動をする、座ったままの時間を減らす、食物繊維や水分を摂るなどがすすめられることも。
睡眠障害の治療
薬物療法が中心です。
しかし、パーキンソン病に合併しているケースに対する薬の有用性は、エビデンスが十分にないものも多いのが現状。
突発的睡眠が患者さんにみられる場合は、危険をともなう作業をしないように指導されます。夜間不眠には認知行動療法が用いられる場合もあります。
気分障害の治療
薬物療法の他、認知行動療法が用いられます。症状が中等度までの患者さんにはマインドフルネスを取り入れたヨガが用いられることもあるようです。
不安に感じていることは、普段から医師にしっかりと話しておきましょう。
衝動制御障害の治療
副作用を引き起こしている治療薬は、投薬量や種類が見直されます。家族や介護者から問題となっている行動について情報を集め、必要に応じて投薬や認知行動療法がほどこされます。
②医師への相談
医師への相談は他の病気を予防する意味でも、パーキンソン病と付き合う意味でも重要です。
例えば、先にご紹介したうつはパーキンソン病の合併症状としてはポピュラー。
一方で、うつには別の精神障害が隠れている可能性もあり、パーキンソン病に由来する場合もそうでない場合も対症療法が必要です。
ものごとへ挑戦する意欲がわいてこないと感じたり、感情が動かないと感じたりするときは早めに医療機関を受診しましょう。
③身近な方との連携
パーキンソン病の精神症状には、患者さんご自身では病気による症状なのかどうかを判断できないものがあります。
認知機能が正常であれば治療薬の副作用の幻覚を患者さんご自身で気づくことが可能。
しかし、認知機能が低下すると幻覚が本当のことのように感じてしまいます。
そのため、周りの方が患者さんの様子を十分に観察し変化を感じられるよう、密接な関わりがある環境を普段から整えておくと良いでしょう。
④症状が出たときのチェックリスト
医療機関を受診するにあたって、限られた診察時間中に症状をことばでうまく表現できないこともあるでしょう。
あらかじめチェックリストにチェックを入れて持参すると、医師への症状の説明がしやすく、安心して診察にのぞめます。
症状がどのように変化したのかを確認できるセルフチェック・シートを提供しているWebページもありますよ。
⑤社会サービスの利用と申請先
治療薬で病状の進行を止めるのは不可能なパーキンソン病。
命の長さに影響はなくても、終生にわたって治療を続けるために、精神的、肉体的、経済的なサポートが必要です。
どのような公的支援があるのかをお伝えします。
- 医療保険制度
- 後期高齢者医療制度:75歳未満であっても、まっすぐに立っていられないなどの状態がみられる65歳以上の人は対象内。市区町村に申請できます。
- 介護保険制度:40歳以上65歳未満で医療保険に入っている人が対象。所得によって介護サービス費用の負担率が1割か2割に決定します。申請先は市区町村。
- 難病医療費助成制度:長期にわたる医療費の支援。一定の重症度を満たす必要があり、申請先は都道府県によって異なります(区役所や保健センターなど)。
- 身体障害者福祉法:身体障害者手帳を持つ人が対象。手帳の等級によって医療費支援と介護福祉的支援の内容が異なります。申請先は市区町村。
- 障害者総合支援法:自立した生活をおくるために必要な就労支援や介護サービスなどを、経済的に負担少なく受けられます。申請先は市区町村。
パーキンソン病と性格のまとめ
今回はパーキンソン病になった人の中で多いとされる性格について、症状と原因を解説しながらご紹介しました。
パーキンソン病患者さんには無口・内向的・陰気といった性格が多いですが、性格でパーキンソン病の発症を予測することはできません。
パーキンソン病の根本的な原因はまだ解明されていませんが、適切な治療と対処法によって生活の質を上げることができます。
パーキンソン病になって性格が変わったように感じたら、治療薬の副作用や他の病気が関係している場合もあるので、周りの方の支援をうけ、医師にご相談ください。