休日しっかり寝たはずなのに、月曜日になると、朝から眠気を感じたり、体調がよくなかったりする方は多いようです。
実は、休日の寝だめは睡眠の質を下げている可能性があります。でも、休日しか睡眠時間を確保できないのにどうすればいいのか?
今回はそんな悩みを解消するために、休日に寝だめをしないで質の高い睡眠をとる方法を紹介します。どうぞ、最後までお付き合いください。
日本人は睡眠負債が溜まっている
2018年、OECDは睡眠に関する調査を行っています。その調査によると、日本人は平均睡眠時間が加盟33か国中、睡眠時間が最も短いことが判明しました。
日本人の睡眠時間が短い一番の原因は、労働時間が長いことです。さらに結婚して共働きで子どもがいる女性は、仕事だけでなく家事や育児の時間も上乗せされ、睡眠時間がますます短くなっています。
また、日本人は睡眠に悩みを抱えている人の割合も高いようです。眠りたくてもなかなか寝付けない、長時間眠っても眠気が取れないなど、5人に1人は睡眠に関する不安を抱えているといわれています。
眠りの借金、睡眠負債とは
「ヒトは一定の睡眠時間を必要としており、それより睡眠時間が短ければ、足りない分が蓄積する。つまり眠りの借金が生じる」
これは、睡眠研究の第一人者、スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の初代所長、ウィリアム・C・デメント教授の言葉です。睡眠時間が極端に短い生活を続けていると、疲労がたまってきて、やがて心身に悪影響が出てきます。この状態を借金になぞらえて「睡眠負債」と呼んでいるのです。日本では2017年ごろから一般的に知られるようになりました。
睡眠負債が溜まるとどうなる?
睡眠時間が極端に短かかったり不規則だったりすると、記憶の定着率が低くなり、仕事や勉強の効率が著しく低下することがわかっています。
アメリカでの高校生の睡眠習慣に関する調査が結果によると、睡眠時間が短い、または就寝時間が遅く起床時間も遅いなど不規則な睡眠習慣がある生徒は、十分な睡眠をとっている生徒より成績が低い傾向にあることがわかりました。
勉強だけでなく、スポーツや楽器の演奏など技能の定着、向上も質の高い睡眠でもたらされることが証明されています。また、質の高い睡眠は昼間得た情報を整理し、重要なものを脳に定着させていると考えられています。
脳の認知機能は起床から15時間ほどたつと徐々に低下していくこともわかってきました。17時間以上起きていると、判断力や集中力を維持するのが難しくなり、酒帯運転に近い状態になるという研究結果もあります。
眠気を我慢して無理に勉強しても成績が思うように上がらないのは、学習する力が眠気によって妨げられるためです。判断力や計画性も欠如することがさまざまな事故例から証明されてもいます。
睡眠不足は時として、重大な事故を引き起こすこともあります。1986年1月におきたスペースシャトル・チャレンジャー号の事故、同年4月におきた旧ソ連ウクライナ共和国の北辺に位置するチェルノブイリ原発も睡眠不足が原因で引き起こされたという報告があります。
日本では睡眠時間を削って勉強や仕事に励むのが美徳、という考え方が今だに根強く残っていますが、実際には疲れを感じたら早めに切り上げて、睡眠をしっかりとるほうが集中力が切れませんし、効率も上がります。
睡眠不足が病気の原因に!
また、睡眠時間が足りないと肥満になりやすく、2型糖尿病などの病気にかかる確率が上がることもわかっています。
ある実験では、健康な男女を
- 毎日9時間の睡眠をとる
- 毎日5時間の睡眠をとる
- 平日の睡眠5時間で休日は好きなだけ眠る
と3つのグループに分け、9日間経過観察しました。睡眠不足気味の2のグループは血糖の調整を担うインスリンの感受性に低下がみられ、摂取カロリーが増え、体重の増加が確認されました。
3のグループは、睡眠時間を増やした後はカロリーの摂取量は減少するがしたものの、平日に5時間睡眠に戻ると再びインスリンの感受性が低下し、カロリーの摂取量、体重ともに増加することが確認されました。
寝だめでは健康を保てない
このことから肥満や2型糖尿病を防ぐためには十分な睡眠が必要だが、休日の寝だめでは効果が得られないことが確認できたのです。健康を保つためには、質の高い睡眠が欠かせないのは間違いありません。
そもそも必要な睡眠時間は何時間?
睡眠は脳の記憶の定着や整理や体の疲労回復、細胞の代謝に深く関わっています。睡眠不足になると仕事や学習の効率が落ちるだけでなく、肌が荒れたりくすんだりするなど、美容にも深刻な影響が出るのもうなずけますね。
それでは、理想の睡眠時間はどれくらいなのでしょうか?
必要な睡眠時間は人それぞれ
一般的には8時間と言われていますが、これはあくまで目安程度に考えた方がよさそうです。というのも、必要な睡眠時間は年齢によって変化していきますし、個人差もあります。
年代別の必要睡眠時間の目安です。
- 20代:約8時間
- 30~40代:約7時間
- 50代~:約6時間
赤ちゃんは、夜昼構わず断続的に短い睡眠を繰り返します。成長するにつれて、睡眠時間は夜に集中するようになり、やがて歳とともに睡眠時間は減ってゆき、50代以降は6時間程度になります。
しかし、生まれつき睡眠時間が3~4時間程度で足りるショートスリーパーもいますし、50代を過ぎても8時間以上寝ないと眠気が残ってしまうロングスリーパーもいます。できれば睡眠時間は1時間ほど余裕をもって睡眠をとるのが理想です。
寝だめで睡眠負債は解消できない
しかし、日本の労働環境は余裕をもった睡眠時間をとるのは難しい状況です。休日はどうしても寝だめしたい気持ちになるのも無理はありませんが、先述したように、寝だめは健康を損ねる可能性があります。
また、寝だめをして朝寝坊すると、体内時計がずれて日曜日の夜に深い睡眠がとれなくなり、疲労が残るので仕事や勉強の効率が低下してしまいます。
寝だめは2時間以内にとどめよう
ただ、寝だめが睡眠不足を解消する効果が全くないわけではありません。いつもより長く眠ることで、睡眠不足による不安を解消できるというメリットもあります。しかし、休日に寝だめをして平日の睡眠時間を短くするという生活を長く続けると、体内時計のずれが慢性化してしまい、質の良い睡眠がとれなくなってしまいます。
どうしても寝だめをしたい場合、いつもより長く眠る時間は2時間以内にとどめましょう。寝だめを2時間以内にとどめられれば、体への負担はそれほどかかりません。
また、寝だめする場合でも起床時間は、できるだけ平日と同じ時間に設定しましょう。できればいつもより早めに就寝し、多少眠くても、1~2時間以内の誤差にとどめます。そして、いつも通り朝食を摂り、そのあとで2度寝をすれば体内時計のずれを防ぐことができます。
寝だめに頼らず質の高い睡眠をとる方法
健康を保つのであれば、寝だめ以外の睡眠不足解消法を考える必要があります。自分のライフスタイルに合った睡眠不足解消法を見つけましょう。
寝だめをせずに、効果的に眠気を解消する方法を調べてみました。
朝日を浴びる
朝起きてから一定の時間、太陽の光を浴びることを習慣にすると、生体リズムが整い質の良い睡眠につながります。休みの前日は、つい夜更かしをしたくなりますが、できるだけ早い時間に就寝して、平日と同じ時間に起きて朝日を浴びるようにしましょう。
起床の時間が一定になれば、夜、自然に眠れるようになります。
朝食を同じ時間に摂る
毎朝一定の時間に食事を摂ることで、体が起きる時間を覚え、すっきりと目覚められるようになります。起床から朝食までの時間は長く開けすぎないようにしましょう。
朝日を浴びて体が目覚めかけても、朝食を摂る時間が遅れると体内で時差ボケをおこし、すっきりとした目覚めが訪れません。
昼寝の習慣を取り入れる
起きてから8時間ほどすると脳が疲れてきます。昼食をとった後は血糖値の変動も激しくなることもあり、昼に眠くなるのは必然と言えそうです。
昼間の眠気を解消するなら、積極的に昼寝をしましょう。昼寝の時間は10~30分くらいがベストです。長くても1時間以内に収めないと、睡眠のリズムがくるってしまいます。忙しくて昼寝の時間がとれない場合でも、数分目をつぶるだけで効果は得られます。
昼寝をする前にコーヒーなどカフェインを含むものを飲んでおくと、すっきりと起きやすくなります。
仮眠をとる時間帯は、午前中に1~2時間程度とり、それでもまだ眠いようなら、15時までの時間に30分以内の仮眠をとります。このように、効果的な2度寝や仮眠ができれば、体内時計のリズムを崩さずに睡眠負債を解消することができます。
帰宅時、電車でのウトウトは厳禁
帰宅時に電車のシートに座ると、ついうたた寝をしてしまいがちですが、夕方眠ってしまうと、夜に深い眠りにつくことができません。昼寝は3時ごろまでに済ませておきましょう。
適度な運動
ウォーキングや軽いジョギングなどで適度な疲労感を感じることで、自然に質の良い眠りにつなげることができます。ただし、寝る直前の激しい運動は厳禁です。午前中~昼までに行うようにしましょう。
寝る前の飲食は厳禁
寝る直前に食事をすると、食べ物の消化が優先され、深い眠りにつくことができません。また、寝酒は脱水症状を起こすので、睡眠中にのどが渇いたり、尿意を感じたりして目が覚めてしまうだけでなく、心拍数も増加するので眠りが浅くなります。飲酒は就寝の3時間くらい前に、ほどほどの量を楽しみましょう。
コーヒーやお茶、エナジードリンク、ココア、チョコレート、などカフェインを含む飲料、食品も避けましょう。カフェインには覚醒作用があり、接種後4~6時間くらいは持続するので、やはり睡眠の質が低下してしまいます。
寝具、寝室の温度に気を配る
眠くなると手足が暖かくなりますが、これは体内の熱を放出して脳や体の深部を冷やし、眠る準備に入るためです。
寝室や寝具内部の温度が高すぎても低すぎても、この機能はうまく働きません。眠るのに最適な寝具内部の温度は、32〜34℃くらいです。湿度は40〜60%程度が理想です。
季節に合わせて、寝室や寝具内部の温度を上手に調節しましょう。
寝る直前に光を浴びない
PCやスマホの光を夜遅くまで目に浴びていると、睡眠に必要なホルモンであるメラトニンの分泌がうまくいきません。スマホの閲覧は就寝の1時間前までに終了し、できれば寝室持ち込まないようにしましょう。閲覧するときは夜間モードにするなど、あまり明るすぎない設定にしておくと睡眠への影響が少なくなります。
夜、家の中ではできれば蛍光灯よりは白熱灯を使用し、明るさは30ルクス以下にするようにするのが理想です。また、夜遅くにコンビニなど明るい場所に長居するのも睡眠に悪影響が出るので注意が必要です。
無理に眠ろうとしない
睡眠時間を確保したいからといって、いつもより何時間も早い時間に眠ろうとして寝床に入っても、うまく寝付けません。また、無理に眠ろうとして逆に緊張してしまうので、余計に眠りにくくなります。
あまり深刻に考えすぎず、リラックスした気分で眠れるよう、穏やかな音楽を聴いたりアロマを焚いたりして、自然な眠気がくるのを待ったほうがよく眠れます。
まとめ
睡眠時間が少なかったり不規則だったりすると、健康に深刻なダメージを与えることがあります。しかし、寝だめは睡眠不足の不安を解消することはできても、睡眠不足の根本的な解消にはつながりません。
規則正しい生活を心がけ、食生活の改善や昼寝、運動など、できることから少しずつ改善することが、寝だめに頼らない質の良い睡眠につながります。
睡眠時間を確保するのが難しい状況の方も多いと思いますが、あまり重く考えずに気長に取り組んでいきましょう。