意識がはっきりしているのに体が動かせない。自分1人しかいないはずなのに、人の気配がする…。金縛りはオカルトめいた話が付きまといますが、実際は医学的に、きちんと説明ができる「睡眠麻痺」の一種です。
とはいえ、やはり体を動かしたくても動かせないのは辛いですし、何より恐ろしい思いはしたくありません。今回は、なぜ金縛りがおこるのか原因を解説し、金縛りが起こらないようにする方法もみていきたいと思います。
金縛りとはどんな状態のことか
金縛りは「睡眠麻痺」という睡眠障害の1つで「睡眠時随伴症」とよばれることもあります。ヒトの睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠が交互にやってきます。ノンレム睡眠は深い眠りで、レム睡眠は浅い眠りです。通常、睡眠はノンレム睡眠から始まります。眠りに入ってから90分ほどするとレム睡眠に移行しますが、何らかの理由により、いきなりレム睡眠から眠りがはじまってしまうことがあります。睡眠麻痺がおこりやすいのは、このような睡眠の誤作動がおきたときです。
レム睡眠時、体は休んでいます。筋肉が完全に弛緩している状態なので、体を動かすことはできません。しかし脳は起きている状態です。このときに目が覚めると、意識はあるのに体を動かすことはできません。これが金縛りです。
金縛りは、それほど特異な症状ではありません。統計により差はありますが、日本では成人の3人~4人に1人は金縛りを経験したことがあるようです。
人がいる気配がするのはなぜ?
日本では、金縛りは怪奇現象とセットで語られることが多いようです。「胸の上に人が乗っている」「部屋の隅に人の気配を感じた」という体験談が数多く聞かれます。
これはいくつかの原因が考えられます。
夢と現実の境目がつかない
金縛りを起こしている際の脳は起床時に近い状態であるため、夢を現実のように思い込んでしまうことがあります。
また、就寝直後は半分起きているような状態で夢を見ることも珍しくありません。このときに見た夢と現実が入り乱れて、人の気配が感じられるような錯覚に陥っている可能性もあります。
呼吸、心拍数の乱れ
金縛りは眠りが浅い状態で起こります。眠りが浅いと呼吸や心拍数に乱れが生じやすく、胸が圧迫されているように感じることがあり、これが「胸の上に人が乗っている」「人の気配がする」といった感覚に繋がっていると考えられます。
金縛りになりすい人の特徴とは
金縛りは、普段運動不足気味な人が急に運動を始めると起こりやすくなり、とくに有酸素運動を行った後は金縛りになりやすい傾向があります。また、旅行中、宿泊した宿で金縛りなる、幽霊を見たという体験談は多数ありますが、これは体が疲労しているうえに慣れない環境下にいることで脳が興奮状態になっていることが関係していると思われます。
また、幽霊が出るという噂のある宿に宿泊する、就寝直前までスマートフォンを閲覧するなど、就寝前に心理的ストレスがかかったり、交感神経を刺激したりするような状態にいた場合も金縛りが起きやすくなります。
毎日過酷なトレーニングをしているアスリートは、毎日のように金縛りになることも珍しくありません。
海外では金縛りをどう捉えているか
金縛りは、日本では怪談やオカルトめいた話がつきまといますが、海外でも古くから似たような捉え方をしています。
- ラオス:「ピー・ナム(幽霊が体を押し付けてくる)」
- 中国:「鬼壓身または鬼壓床(幽霊に押さえつけられた体)」
- ベトナム:「マ・ブ(幽霊に押さえつけられた)」
- フィジー:「カナテボ(悪魔に食べられる)」
- トルコ「カラバサン(暗闇の抑圧者・襲撃者)」
- メキシコ:「セ・メ・スビオ・エル・ムエルト (死人が乗り移った)」
- カナダ(ニューファンドランド島):「邪悪な老婆」
金縛りは文学作品にもしばしば登場しています。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」では、次男のイワンが金縛りになる描写があります。
古くから金縛りが恐れられている国がある一方で、金縛りがほとんど知られていない国もあります。フランスやドイツなどでは、医学的な「睡眠麻痺」があることは知られていますが、霊や悪魔など、縁起の悪いものと結び付けて考えることはほとんどないようです。
金縛りが起きる主な原因4つ
睡眠はノンレム睡眠から始まり、レム睡眠へと移行した後は、ノンレム睡眠とレム睡眠の繰り返しです。しかし、ときにはレム睡眠から始まり、睡眠のサイクルに乱れが生じることがあります。睡眠が乱れる主な原因は以下の4つです。
- 疲労の蓄積
- 睡眠の質の低下
- ストレス
- 寝るときの姿勢
疲労の蓄積
仕事が忙しく、夜遅くまで残業したり徹夜で仕事したりすることで、睡眠時間が削られることで疲労が溜まります。疲労が溜まると、自律神経が乱れ、睡眠のサイクルが崩れて金縛りが起きやすくなります。
睡眠の質の低下
仕事で忙しくて平日は睡眠が充分とれない分、休日は昼過ぎまで寝だめするなど不規則な睡眠をしていると、やはり睡眠のサイクルが崩れて深い眠りがとりにくくなります。また、旅行など慣れない環境にいると、体は疲労していても脳が興奮しているので、深い眠りにつくことができなくなります。
また、休日、スマホの閲覧とうたた寝を数時間ごとに繰り返すと、睡眠の質を下げることに繋がります。
ストレス
過度なストレスにさらされ続けると、自律神経のバランスが乱れて睡眠のサイクルが崩れます。また、ストレスで精神が不安定になることで、深い眠りに着けなくなることも珍しくありません。
金縛りは思春期から出始めますが、体と心のバランスが取れず、ストレスの大きい時期であることが原因になると考えられます。
寝るときの姿勢
仰向けで寝ていると金縛りになりやすい傾向があります。横向き寝は、仰向け寝に比べて安定した姿勢がとりづらいため、レム睡眠が中断されやすく、金縛りが起こりにくいと考えられていますが、実際はよくわかっていません。
あわてない!金縛りを解く方法とは
目は覚めているのに身動きがまったくとれない状況が続くため不安に感じますが、焦る必要はありません。ほとんどの金縛りは数分ほどで自然に解けます。金縛りが解けないまま再び眠り、朝目が覚めると解消されていることも珍しくありません。
少しでも早く解消したい場合は、以下の方法を試してみましょう。
- 深呼吸して、体の力を抜いてリラックスする
- つま先や指先など動く部分があるか確かめ、動く場合は、ゆっくり少しずつ動かしてみる
ゆっくりと動かすことで脳が「体が動かせる」と判断し、自然に動かせるようになります。とにかく、焦らずゆっくり動かすことがコツです。
金縛りにならないためにできること
金縛りは疲労の蓄積、睡眠不足などが原因です。睡眠の質を高める生活習慣に変えていく必要があります。
1. 就寝時間、起床時間を固定する
週末の寝だめ、夕方近くになっての仮眠、テレビやスマホを見ながらの寝落ちなど、不規則な睡眠は最初の眠りがレム睡眠になりやすく、金縛りになる可能性が高くなります。
起床時間は毎日固定し、休日の寝だめもなるべく避けましょう。どうしても眠気が治まらない場合は、朝一度起きてから、仮眠をとると眠気が軽減されます。仮眠は1時間程度で、15時くらいまでにとるようにしてください。仮眠の時間を長くとりすぎたり、夕方近くなって仮眠をとったりすると睡眠のリズムが崩れてしまい、金縛りが起きやすくなります。
また、最近はリモートワークの影響で昼夜逆転の生活に流れやすくなっています。タイマーなどを利用して意識的に生活にメリハリをつけましょう。
2. 寝る直前のスマホはNG
寝る直前までスマホやテレビは脳を興奮させるため、スムーズに入眠できません。また、スマホのブルーライトを目に浴びることで、脳が昼間と勘違いし、睡眠に必要なホルモンが出にくくなります。スマホやテレビの閲覧は就寝2~3時間前までにすませましょう。
3. 睡眠時間を確保する
ヒトの理想の睡眠時間は約8時間といわれています。それ以下になると、疲労が溜まり、金縛りが起きやすくなります。睡眠時間を少しでも多く確保するよう心がけましょう。
4. ストレスを溜めないようにする
睡眠は、自律神経が交感神経から副交感神経に入れ替わることで、スムーズな入眠をもたらしますが、ストレスが溜まると交感神経と副交感神経の入れ替えができず、なかなか入眠できません。眠りも浅くなります。
就寝2時間前くらいまでに、ぬるめのお風呂につかってリラックスしたり、昼間、ウォーキングなどの有酸素運動をしたりして、上手にストレスを解消する方法を考えましょう。
5. 睡眠環境を整える
質の良い睡眠には、適度な寝返りが必要になります。高すぎたり低すぎたりする枕は寝返りを打ちにくく、首や肩に負担がかかります。マットレスは柔らかすぎず、固すぎないものが理想です。個人の好みによりますが、質の良い睡眠がとれていないと思う場合は、思い切って寝具を買い替えてみましょう。
寝室の気温、湿度にも気を配る必要があります。睡眠に最適な室温は22℃~25℃、湿度は50%~60%です。季節によってエアコンや加湿器を上手に利用して睡眠の質を上げる工夫をしましょう。
6. なるべく横向きで寝る
金縛りは仰向けの姿勢で寝ているとおこりやすくなります。個人の好みもあると思いますが、金縛りを避けるには横向き寝がおすすめです。
7. 寝酒は避ける
寝る直前のアルコールは睡眠の質を下げます。寝付きはよくなりますが、アルコールを分解する過程で覚醒作用が発生するのに加え、利尿作用もあるため、夜中に目が覚めやすくなり、睡眠のサイクルを乱します。
睡眠の質を上げることで、金縛りになる頻度を下げることができます。できるところから少しずつ始めましょう。
金縛りは病気の可能性も
生活習慣を改善しても金縛りが繰り返し起こる場合は、何らかの病気が隠れている可能性もあります。ナルコプレシーを発症していると金縛りがおこりやすくなります。
ナルコプレシーが金縛りの引き金に
ナルコプレシーは、昼間、突然眠くなって眠ってしまう睡眠発作です。通常の眠気と違い、どうしても眠気を抑えきれず、会議中や車の運転中など、寝てはいけない場面でも寝てしまうが特徴です。喜びや驚きなど、感情を大きく揺り動かすようなことをきっかけに、全身の力が抜けてしまうこともあります。
ナルコプレシーの患者は、眠りはじめからレム睡眠に入ることがあり、金縛りを起こすことがあります。昼間、睡魔に勝てず仕事や勉強に支障が出る上に、金縛りが頻繁に起こるようであれば病院で診察を受けたほうがいいでしょう。
受診は脳神経内科、精神科、睡眠外来になります。
まとめ
金縛りは睡眠のサイクルが崩れることから発生します。心霊現象の可能性は、ほぼありません。
睡眠のサイクルが崩れる原因は「疲労の蓄積」「睡眠の質の低下」「ストレス」「寝るときの姿勢」の4つです。いずれも十分な睡眠がとれていない、不規則な生活が引き金となっています。生活習慣を改善して、十分な睡眠がとれるよう、できることから少しずつ始めましょう。
比較的珍しいケースですが、睡眠発作「ナルコプレシー」が原因になっていることもあります。頻繁に金縛りが起こる場合は、早めに専門医の診察を受けましょう。