水分や食べ物が、飲み込みにくくありませんか?
食事中に、むせこんでいませんか?
のどのあたりに残留感はありませんか?
このような嚥下に関わる不調、嚥下障害は、原因も度合いもさまざまです。
「これは老化現象なのか」、「何か病気が隠れているのではないか」と不安な方は、
一度、嚥下機能の検査「嚥下評価」を受けると良いでしょう。
この記事では、嚥下障害の評価方法7つとその後の対策についてお話します。
嚥下の不具合に適切な対処をし、大切な食事時間や体調の改善に役立てていただければと思います。
1.嚥下障害の症状と原因
まず、嚥下障害とはどういうものかを知っておきましょう。
嚥下(えんげ)とは、食べ物を口に入れてから、噛み、飲み込んで、咽頭、食道、胃へと運ばれるまでの一連の動作のこと。この流れの途中で何らかの機能が弱まってしまい、さまざまな症状が出てくることを、嚥下障害と言います。
嚥下障害の症状には以下のようなものがあります。
「食べ物や飲み物を飲み込みにくい」
「食事中にむせる」
「飲み込むまでに時間がかかり、疲れる」
「口から食べ物をこぼしやすい」
「食後に声がかすれる」
「痰(たん)がからみやすい」
「のどに食べ物が残っている感じがする」
また、食べ物が食道でなく気道に入ってしまう誤嚥(ごえん)、脱水、口から食べ物を摂れないことからの低栄養状態、さらには窒息、誤嚥性肺炎になってしまうこともあります。
日常生活に大きな影響を及ぼす前に、まずは、嚥下機能の不具合がどのくらいの重症度なのかを知ることが大切です。
嚥下の機能がうまく働かなくなるのは、どのような原因があるのでしょうか。
原因は大きく分けると3つあります。
1つ目は、嚥下機能に関わる特定の器官に病気があることです。
たとえば、口内炎や咽頭炎、食道がんなどの炎症や腫瘍が考えられます。
2つ目は、嚥下の動きに必要な筋肉の機能が衰えていること。老化による筋力の低下をはじめ、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経筋疾患からも起こります。
3つ目は、心理的、精神的な問題です。うつ病や不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)から、飲み込みづらい状態になります。
嚥下障害は、高齢者に多くみられますが、20代の若者でも起こります。
睡眠薬などの薬を多用することによる副作用や、ストレートネック、ストレスも嚥下障害を引き起こす要因になります。
2.嚥下難易度レベルを判定する嚥下評価
では、自分は嚥下障害なのか、どの程度の重症度なのかを判断するには、どうすればよいでしょうか。
方法は、スクリーニング検査と精密検査があります。
スクリーニング検査は、嚥下障害があるのか、嚥下機能のどの部分に問題があるのかを推測できるものです。
食べるときの口や咽喉の動きをチェックする簡易的な検査で、耳鼻科や歯科、リハビリテーション科の病院や、高齢者や患者に適切な嚥下食を提供するために施設で行われます。
また、セルフチェックの手段にもできますので、ご自宅でも試してみてください。
スクリーニング検査は、主に4つ実測法があります。
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- 反復唾液嚥下テスト
- 水飲みテスト(窪田式)
- 改訂水飲みテスト
- フードテスト
まずは、反復唾液嚥下テストをやってみましょう。
評価方法1:反復唾液嚥下テスト
① のどぼとけを中指で軽く押さえます。
② そのまま30秒間、唾液を飲み続けます。
③ 何回、飲み込めたか*を数えます。
*のどぼとけが中指をしっかりと乗り越えた場合に数えてください。
【反復唾液嚥下テストの評価基準】
飲み込めた回数が、3回以上であれば正常。
2回以下の場合は嚥下障害の可能性がありますので、精密検査が必要です。
正常だった場合は、次の水飲みテストを行います。
評価方法2:水飲みテスト
① グラスに大さじ2杯(30ml)の水を入れます。
② その水を普段通りのペースで飲みます。
③ 何回、飲み込んだか、むせたかどうかを確認します。
【水飲みテストの評価基準】
1.1回でむせることなく飲むことができる(嚥下に5秒以内) →正常
2.2回以上に分けるが、むせることなく飲むことができる。→嚥下障害の可能性あり
3.1回で飲むことができるが、むせることがある。→明らかに異常あり
4.2回以上に分けて飲むにもかかわらず、むせることがある。→明らかに異常あり
5.むせることがしばしばで、全量飲むことが困難である。→明らかに異常あり
以上の、5段階評価のうちどれに該当しましたか?
また、すするような飲み方、含むような飲み方、口唇からの水の流出、注意深い飲み方といった傾向も参考にします。
ただし、この水飲みテストは、嚥下障害が重度の人には、誤嚥のリスクがあります。
その場合は、改訂水飲みテストが有効です。
評価方法3:改訂水飲みテスト
少量(3ml)の冷水を口に入れて、「むせこみがあるかないか」、「嚥下動作による呼吸状態は安定しているか」、「声の変化があるか」を評価します。
【改訂水飲みテストの評価基準】
評点1:嚥下なし、むせる、および/または呼吸切迫 →嚥下障害
評点2:嚥下あり、呼吸切迫 →嚥下障害
評点3:嚥下あり、呼吸良好、むせる、および/または湿性嗄声(痰が絡むような湿ったガラガラ声)→嚥下障害
評点4:嚥下あり、呼吸良好、むせなし →正常
評点5:評点4に加え、反復嚥下(唾液を嚥下)が30秒以内に2回可能 →正常
評価点が4点か5点であれば、テストを1~2回繰り返し、最も悪い点数を評価点とします。
このテストで、むせたり、ガラガラした声にならなければ、前述の30mlの水飲みテストを行うと良いでしょう。
水飲みテストで問題がなければ、フードテストに移ります。
評価方法4:フードテスト
フードテストは、高齢者向けの液状食品を食べて行う方法です。
ティースプーン1杯(約4g)のプリンやおかゆを食べた後、「飲み込めたか」、「口の中に残留物があるか」、「呼吸の変化」などを評価します。
【フードテストの評価基準】
評点1:嚥下なし、むせる、および/または呼吸切迫 →嚥下障害
評点2:嚥下あり、呼吸切迫 →嚥下障害
評点3:嚥下あり、呼吸両行、むせる、および/または湿性嗄声、口腔内残留中等度 →嚥下障害
評点4:嚥下あり、呼吸良好、むせなし →正常
評点5:4に加え、反復嚥下(空嚥下)が30秒以内に2回可能 →正常
以上の評価基準のうち、評価点が4点か5点であれば、テストを1~2回繰り返し、最も悪い点数を評価点とします
フードテストと同時に、聴診器を使って首の部分の嚥下音をチェックする「頸部聴診法」や、ガムを噛んで咀嚼能力を評価する「ガムテスト」も組み合わせて実施されることもあります。
次に、嚥下精密検査について解説します。
嚥下内視鏡検査と嚥下造影検査の2つの方法があります。
評価方法5:嚥下内視鏡検査
嚥下内視鏡検査では、内視鏡(カメラ)を鼻から咽頭に挿入し、咽頭や声帯、食道入り口部を観察します。
形態(のどの形など)の異常や、咽頭内の唾液の溜まり具合、咳の起こりやすさを確認した後、内視鏡の管を挿入した状態で、食べ物を摂取して嚥下の様子を評価します。
評価方法6:嚥下造影検査
嚥下造影検査では、造影剤入りの検査食を嚥下する経過、つまり一連の食物の流れと、嚥下に関わる各器官の動きをX線で撮影し、観察します。
形態の異常や飲み込み方、誤嚥、食べ物の残留があるかを調べ、病気や機能を診断します。
さらに、嚥下がうまくできる体位や姿勢、適した食べ物の状態や一口量、必要な訓練法を検討することになります。
嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査は、「嚥下能力グレード」を裏付けることができます。
「嚥下能力グレード」とは、日本摂食・リハビリテーション学会医療検討委員会が提唱する「藤島摂食・嚥下能力グレード」というもので、治療目標を立て、指導方法を明確にしていくために役立てられています。
以下が、10のグレード分けの詳細です。
≪Ⅰ重症 経口不可≫
Gr.1 | 嚥下困難または不能で、呼吸状態も不安定。 嚥下訓練適応なし |
Gr.2 | 食べ物を使用しない基礎的嚥下訓練のみの適応があり、実際の食事は困難 |
Gr.3 | 医師や介護士のサポートなどの条件が整えば、誤嚥は減り、摂食訓練が可能 |
≪Ⅱ中等症 経口と代替栄養≫
Gr.4 | 基本的には点滴や経管による代替栄養だが、楽しみとして嚥下食の摂食は可能 |
Gr.5 | 代替栄養を行うが、1~2食分の嚥下食の経口摂取が可能 |
Gr.6 | 3食とも嚥下食の経口摂取が可能だが、薬や水などの代替栄養も必要 |
≪Ⅲ軽症 経口のみ≫
Gr.7 | 嚥下食で3食とも経口摂取可能、代替栄養は行わない |
Gr.8 | 特に食べにくく、嚥下しにくい食品を除き、3食の経口摂取可能 |
Gr.9 | 常食の経口摂取可能だが、医師の観察と指導が必要 |
≪Ⅳ正常≫
Gr.10 | 正常の摂食・嚥下能力があり、むせたり、のどに食べ物が残るなどの症状がない状態 |
参考:日本摂食・リハビリテーション学会医療検討委員会
評価方法7:質問紙法
7つ目は、一番手軽にできる嚥下評価の方法、質問紙法です。
これまで説明してきた実測法ではなく、質問に答えるだけです。
ここでは、2つの質問ツールを紹介します。
まずは、「EAT-10(イートテン)」。(クリックするとダウンロードできます)
10個の質問に答え、嚥下状態をチェックするものです。
各質問に0点(問題なし)から4点(大きく問題がある)で答え、合計点が3点以上の場合、嚥下障害の可能性がありますので、専門医の受診が勧められています。
もう一つは、「聖隷式嚥下質問紙」。(クリックするとダウンロードできます)
15の質問に3つの選択肢A、B、Cから選んで答えます。
引用:日医工『摂食嚥下障害Q&A』浜松市リハビリテーション病院 病院長 藤島一郎監修
嚥下の困難度が高いAが1つ以上ある場合は、嚥下機能低下と判断できます。
3.嚥下障害の対処法、そして対策
ここまで、ご自宅でテストして嚥下障害の可能性がある場合は、耳鼻咽喉科や消化器科、歯科口腔外科、神経内科、リハビリテーション科などで受診をしましょう。嚥下障害の評価によって、専門医のもとリハビリテーション(基礎訓練)と摂食訓練が必要になります。
リハビリテーション
リハビリテーションでは、食事をする前に、嚥下に関わる器官のマッサージや体操を行います。
嚥下機能を回復させて、安全に食事を楽しむことができるようにするものです。
たとえば、口唇や頬などの口腔周囲をマッサージして、硬くなった筋肉をやわらかくします。
また、腹式呼吸や首の上下運動、頬をふくらませたる、「パパパ、ラララ、カカカカ」とゆっくり言うなどの嚥下体操があります。
嚥下障害は、専門的な指導のもとに適切なリハビリテーションを行うと大きく改善する場合があります。
重度の嚥下障害で、リハビリテーションでの回復が難しい場合は、外科手術を検討することになるでしょう。
摂食訓練
摂食訓練は、嚥下の難易度評価に基づいて、嚥下食から普通食までの6段階を段階的に踏んでいきます。
これも専門医や言語聴覚士、看護師の指導のもとで行いましょう。
お茶ゼリーやフルーツゼリーなどの開始食(レベル0)から始まり、
ネギトロや茶わん蒸しなどの嚥下食1(レベル1)、
フォワグラムースなどの嚥下食2(レベル2)、
卵料理などの嚥下食3(レベル3)、
そしてやわらかい煮物などの介護食(レベル4)、
ロールパンなどの普通食(レベル5)へと移行してきます。
最後に、嚥下障害の予防策についてもお伝えします。
嚥下障害の予防には、筋力のキープが大切です。
なるべく体を全体を動かして全身の筋力を保つようにしましょう。
そして、舌を前後に出し入れしたり、口をすぼめて深呼吸するなどのトレーニングも日常的に行うと効果的です。
4.嚥下評価のまとめ
食べにくい、むせてしまう、食事に時間がかかる、といった嚥下障害は、ストレスを感じるだけでなく、誤嚥性肺炎や低栄養などさまざまなリスクにつながります。
専門家が伴う適切な環境下で、嚥下障害の難易度評価を行い、嚥下機能回復のための対策をしっかり練ることが大切です。
この記事では、そのために有用な嚥下評価の方法について解説しました。
嚥下障害の原因は老化や病気だけでなく、薬の多用やストレスよる場合もあります。
「おかしいな」と思ったら、この記事を参考にして、その不調を改善していきましょう。