みなさんは「口腔リハビリテーション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
今回は、「口腔」と「リハビリテーション」という言葉の意味から掘り下げて、
日常生活にも取り入れやすいリハビリ的内容も紹介していきます。
健康寿命にも口腔の機能が非常に重要になってきます。それでは、始めていきましょう。
リハビリテーションとは?
ここで改めてリハビリテーションという言葉の意味を振り返ってみましょう。
リハビリテーションを英語で書くと「re-habilitation」。「re」とは「再び、戻る」という意味があり、「habilis」とは「適した、人間らしい」という意味になります。つまりリハビリテーションとは、「再び自分らしい生活を取り戻す」という意味だといえます。リハビリテーションを行うということは単なる機能回復や痛みの緩和を目的としたものだけを指すのではなく、「再び自分らしい生活を取り戻す」ことを目的とした取り組みのすべての行為を指します。
リハビリテーションの専門家
リハビリテーションの専門家は、主に3種類あり、「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」と分けられます。口腔機能の専門家は「言語聴覚士」ではありますが、誤嚥なくご飯を食べるには、どのうような姿勢で食べるのか、食べ物を口にどのように運ぶのかなどの評価も必要で、そこには姿勢や動作の専門家である「理学療法士」が必要です。
また、他者とコミュニケーションをとるには、相手がどのような人であるかを認知している必要があるため、認知機能の専門家「作業療法士」が必要になります。それぞれの専門分野を活かし、患者さんにリハビリテーションをしていくことが理想的であり、各職種が協働することがより良い結果を導くために必要なことになります。
口腔とはどの部分?どういう機能?
日常生活で「口腔」という言葉を使う方は稀ではないでしょうか。ここで「口腔」とはどこを指すのか確認しておきましょう。人間の構造でいうと口腔とは「歯」「歯周組織」「舌」「唾液腺」を指します。食べ物を食べるために不可欠な部分ですね。
そのため、この口腔の主な機能としては、「咀嚼(噛むこと)」「嚥下(飲み込む)」「発声(声を発すること・しゃべること)」になります。
つまり「口腔リハビリテーション」とは、「口腔機能に何らかの問題を抱えたことで、日常生活に困っている方」を対象に行う取り組みということになります。また、既に問題を抱えている方だけでなく、今後口腔機能に問題を抱えるおそれがある方も対象となることがあります。これは、予防的な観点が必要になってきます。
どこに問題があるのか?リハビリでは「評価」が大切。
先程もご紹介したように、口腔機能とはざっくりいうと「食べること」と「話すこと」です。
食べることには、物を噛む、飲み込むという機能があるので、この行為の過程のどこで問題が起きているかを評価をする必要があります。
噛むことであれば、歯や舌、顎関節の運動が必要になるので、歯科医や歯科衛生士が専門分野になります。
飲み込むということには、噛んだ食べ物を気管ではなく食道にいれることが必要です。ここで食べ物が気管に入ってしまうと誤嚥性肺炎を発症するリスクが非常に高くなってしまうため、細かな評価が必要です。そこで、言語聴覚士や医師が嚥下の機能を評価します。触診や目視で行う評価の他に、嚥下内視鏡検査(V.E)といわれる、鼻腔ファイバースコープという内視鏡をのど(咽頭)に挿入し、食物の飲み込み(嚥下の様子)を観察するという検査をすることもあります。
話すことは、脳の問題なのか口腔機能の問題なのか、はたまた姿勢の問題なのかを見極めていく必要があります。
ここでリハビリテーションの大原則ですが、まずはどこで何が問題を起こしているかという評価をして治療的介入をしていく。この流れの繰り返しです。むやみに治療的介入をせずに、評価を常にしながら進めていくことが非常に大切になります。
口腔機能のリハビリテーションの内容
具体的にはどのようなリハビリテーションが行われているのでしょうか。
まず、噛むことですが、これは主に歯で行われるため、歯を衛生的に保つ必要があります。歯のケアとして一番最初に思い浮かぶのはなんでしょう。日常的に行われる「歯磨き」が代表的なケアといえます。歯磨きをするということは、食べかすや歯垢の除去の除去の他に、歯肉への刺激・唾液の分泌を促進する効果があります。歯ブラシが歯肉を刺激することで、歯と歯肉の隙間である、いわゆる歯周ポケットが適度にしまります。歯周ポケットが広くなってしまうと食べかすが詰まりやすくなったり、歯自体が不安定になってしまいます。歯を健康的に保つためには、毎日の歯磨きは欠かせません。
食事のときの意識も大切です。よく噛むことはシンプルに食べ物を細かくすることができるので、消化吸収しやすい形になり、胃腸の負担の軽減になります。また噛むことで唾液の分泌も促されるので、口腔内の殺菌作用にも役立ちます。まずは、普段より5回多く噛んで飲み込むということからやってみてはいかがでしょうか。
次に、飲み込むこと「嚥下」のリハビリはどのように行うのでしょうか。食べ物を飲み込むという行為は、食べ物を咽頭(のど)から食道・胃へと送ることです。ここで非常に重要なのは、肺に繋がっている気管を避けることです。食べ物が、気管に入らず食道に入っていくには「嚥下反射」が必要です。健康な人は、飲み込むときに自然と嚥下反射が起きますが、なんらかに問題があると嚥下反射が遅れたり嚥下反射で起こる筋力が低下していたり、嚥下反射自体が起こらない場合があります。気管に食べ物が入ってしまうと誤嚥性肺炎を起こすリスクが非常に高まります。今や高齢者の死亡原因の3位がこの誤嚥性肺炎といわれています。
食べ物を飲み込みやすくするには、食べ物自体がまとまっていることが重要です。ですので、食べ物自体を刻んで調理をすることやトロミをつけることで嚥下しやすくなります。どの程度の刻みやトロミが必要なのかは、実際に食事を食べて評価します。
最後に、発声することのリハビリはどうでしょうか。おすすめの発声練習は「パタカラ」です。「パタカラ」と発音することで音を出すための唇や舌の動きを促せるため、発生機能の維持・向上に効果的です。
人とお話することも意識的にしていきましょう。現代では、スマホやPCの普及により、メールやSNSでのやりとりが急激に増えています。原点に戻って声を出して会話をすることをやってみましょう。お腹から声を出すのは、横隔膜の働きが必要になります。話すことで体幹機能を促すことにもつながるのです。
最後に
人の機能は使わないと衰えていきます。現代は便利なものにあふれ、自分で頭や体を使わなくても快適に過ごせてしまいます。車の開発で歩くことが減り、スマホの普及でなんでも調べることができてしまいます。記憶力というものが不必要になってきてまっているのかのようです。しかし、「人生100年時代」とも言われているように、人間の寿命もかなり伸びています。寿命の延伸だけではなく、健康寿命の延伸を意識して日常生活を送ることで、未来への体への投資ができます。
体は死ぬまで一生自分のものです。意識して丁寧に体を使うことや自分自身の体に感謝の気持ちをもつこと、このような時間を一日の中で少しでも持てたら、より自分らしく暮らせる第一歩になります。